重篤な精神疾患患者における寿命の短縮には、抗精神病薬の急速かつ生命に影響を及ぼす副作用が関与している可能性がある。ドイツ・ミュンヘン工科大学のJohannes Schneider-Thoma氏らは、この仮説を検証するため、抗精神病薬のプラセボ対照試験における死亡発生のシステマティックレビューおよびメタ解析を行った。The Lancet Psychiatry誌2018年8月号の報告。
本システマティックレビューおよびメタ解析は、各診断カテゴリにわたる第2世代抗精神病薬とプラセボを比較した、ランダム化比較試験を対象とした。2017年1月21日までのデータをMEDLINE、EMBASE、Cochrane CENTRAL、BIOSIS、PsycINFO、PubMed、ClinicalTrials.gov、WHO ICTRPより検索し、さらに適格試験を抽出するため、製薬企業および規制当局に連絡を取った。すべての原因による死亡率(主要アウトカム)、自然原因による死亡率、自殺率、非自然原因による死亡率について調査を行った。共通効果メタ解析において、オッズ比(OR)を用いて結果を検討した。サブグループおよびメタ回帰分析において、年齢、診断カテゴリ、性別、研究期間、使用された抗精神病薬、投与量、多剤併用の影響を調査した。
主な結果は以下のとおり。
・1978~2017年に発表された596件のランダム化比較試験より、10万8,747例を抽出した。
・入手可能な死亡率データを有する352件の研究(8万4,988例)を、メタ解析データの主なデータセットとした。
・死亡報告数は、抗精神病薬使用群5万3,804例中207例(0.4%)、プラセボ群3万1,184例中99例(0.3%)であった。
・352件中300件(85%)の研究は、13週(3ヵ月)以下の研究期間であった(中央値:6週間、IQR:4~10)。
・抗精神病薬使用群とプラセボ群との間に、死亡率の差は認められなかった。
●すべての原因による死亡率 OR:1.19、95%CI:0.93~1.53
●自然原因による死亡率 OR:1.29、95%CI:0.85~1.94
●自殺率 OR:1.15、95%CI:0.47~2.81
●非自然原因による死亡率 OR:1.55、95%CI:0.66~3.63
・ほとんどのサブグループおよびメタ回帰分析において、重要な影響調整因子は認められなかったが、例外として以下の場合に死亡率の増加が確認された。
●認知症者 OR:1.56、95%CI:1.10~2.21
●高齢者 OR:1.38、95%CI:1.01~1.89
●アリピプラゾール使用 OR:2.20、95%CI:1.00~4.86
●女性の割合が高い研究 回帰係数:0.025、95%CI:0.010~0.040
・しかし、高齢者、アリピプラゾール使用、女性の割合が高い研究における影響は、主に認知症者に対する試験が含まれていた。
・統合失調症患者では、死亡リスク増加は認められなかった(OR:0.69、95%CI:0.35~1.35)。
著者らは「全体として、統合失調症に対する抗精神病薬の使用が死亡率を増加させるとするエビデンスは、ランダム化試験より認められなかった。しかし、とくに認知症などの集団においては、死亡リスクが高い可能性が示唆された。本研究では、死亡率に対する抗精神病薬の長期的な影響ではなく、急性期治療による短期的な影響についてのみ検証可能であった」としている。
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