2018年のノーベル生理学・医学賞を共同受賞した、本庶 佑氏(京都大学高等研究院 特別教授)とJames P. Allison氏(テキサス州立大学 MDアンダーソンがんセンター 教授)が、現地時間の12月10日(日本時間 12月11日未明)、授賞式に出席した。
両氏の研究成果は、がん免疫療法の発展に大きく寄与している。本庶氏は日本医師会での講演にて、がん免疫療法によって「今世紀中にがん死はなくなる可能性が出てきた」と語っている。いま一度、両氏の功績を振り返るとともに、がん治療に大変革をもたらした免疫チェックポイント阻害薬の開発までの軌跡をたどる。
がん免疫療法、はじめの一歩
免疫チェックポイント阻害薬の標的である免疫チェックポイント分子のうち、最初に発見されたのがCTLA-4(cytotoxic T-lymphocyte-associated protein 4)であった。
1987年、CTLA-4は活性化T細胞上に発現する分子として発見され
1)、1990年代半ばにはCTLA-4が抑制性受容体であり、T細胞のブレーキ機能を果たすことが明らかにされた
2)。これに着目し、がん治療への応用を考えたのがAllison氏らだ。Allison氏らはマウスを用いた実験でCTLA-4をモノクローナル抗体で遮断し、いわばT細胞のブレーキを外すことで、抗腫瘍免疫応答を活性化できることを証明した
3)。これは、最初の免疫チェックポイント阻害薬である抗CTLA-4抗体の臨床開発につながる大きな発見だった。
大変革への架け橋
時を同じくして、1992年に本庶氏らは、もう1つの免疫チェックポイント分子を発見する。それがPD-1(Programmed cell Death 1)分子だ。本庶氏らはPD-1がCTLA-4と同様にT細胞のブレーキとして機能するものの、CTLA-4とは異なる機序で作動することを示した
4)。そして1990年代後半には、本庶氏らが実施したPD-1欠損マウスでの研究
5)からPD-1分子による免疫抑制作用が明らかにされた
6)。2000年にはPD-1のリガンドであるPD-L1(Programmed cell Death ligand 1)が同定された。T細胞上のPD-1が、がん細胞に発現したPD-L1と結合すると、T細胞にブレーキが掛かり活発な免疫反応が妨げられる。その結果、がん細胞は免疫システム攻撃から逃れていることを解明したのだ
7)。
この本庶氏らの研究成果は、抗PD-1抗体開発につながる偉大な功績となった
8)。
がん免疫療法のいま・未来
2000年代に入り、抗CTLA-4抗体や抗PD-1抗体といった、免疫チェックポイント阻害薬の臨床試験が開始された。2010年、抗CTLA-4抗体のイピリムマブの、悪性黒色腫に対する顕著な効果が示された
9)。
また2012年には、抗PD-1抗体であるニボルマブの、非小細胞肺がん(NSCLC)、悪性黒色腫、腎細胞がん(RCC)といった複数のがん種に対する臨床試験において、既存の治療法と比べて、全生存期間および奏効率の双方に関する臨床的に著しい改善が示された
10-12)。まさにがん治療の大変革が現実のものとなったのだ。
その後本邦では、2014年7月に世界に先駆けてニボルマブが、2015年7月にはイピリムマブが承認を取得した。両剤は免疫チェックポイント阻害薬のトップランナーとして、実臨床で高い効果を発揮し、がん治療に大きな貢献を果たしている。
現在、多数のがん種において、さまざまな免疫チェックポイント阻害薬の開発が進む中、がん免疫療法単独での効果を増強する目的で、作用機序が異なるがん免疫療法同士を組み合わせた、複合がん免疫療法の開発が盛んに行われている
13)。イピリムマブとニボルマブの併用療法も一部のがん種で承認され、治療の幅が広がっている。今後もがん免疫療法の発展は続いていくようだ。
免疫チェックポイント阻害薬はがん治療に大きな変革をもたらした。本庶氏が語るように、がん免疫療法によってがん克服が可能になる日も遠くないのかもしれない。
■参考
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(ケアネット 門脇 剛)