昨年における児童虐待事件は、過去最多の1,380件が警察により摘発され、被害児童は1,394人だった。そのうち36人が亡くなっており、痛ましい事件は後を絶たない。
2019年3月都内にて、加茂 登志子氏(若松町こころとひふのクリニック メンタルケア科 PCIT研修センター長)が、「虐待について」をテーマに講演を行った。専門医でなくとも、診療を受けている患者が虐待やDVなどの問題を抱えている可能性があるかもしれない。
虐待は年々増えている
児童虐待件数は、1990年に統計が開始されて以降、年々増加の一途をたどっている。2017年度中に、全国210ヵ所の児童相談所が対応した件数は13万3,778件(速報値)と過去最多であった。警察の積極的介入などにより発覚件数が増えているとも考えられるが、「おそらく、全体の件数も増えているだろう」と加茂氏は見解を示した。
虐待による死亡数は0歳児が最も多く、2003~2016年度の集計では3歳児以下が77.0%を占めている。同氏は「産後うつをイメージするとわかりやすい。母子心中が日本人では多い」と指摘した。しかし、0~17歳まで、全年齢で死亡事例があり、問題はそれだけではないという。
2017年度の報告によると、児童相談所に寄せられる相談のなかで1番多いのは心理的虐待(54.0%)だ。次いで、身体的虐待(24.8%)、ネグレクト(20.0%)、性的虐待(1.2%)と続く。両親間のDV目撃(面前DV)なども心理的虐待に含まれ、DVと虐待が併存する例も少なくない。「大きく報道されるのは亡くなった事例だが、生きていて虐待やDVを受けている事例はニュースにならない。辛い思いをしている子供はたくさんいる」と、関心を呼び起こした。
適切な対応で将来的な虐待を減らす
虐待・DV被害を受けた子供の診断例(DSM-5)として、「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」、誰に対しても愛着を示さない「反応性愛着障害」、誰にでも見境なく愛着行動を示す「脱抑制型対人交流障害」などがある。また、ICD-11においてPTSDは従来のものだけでなく“複雑性”が採用される見込みで、DVや虐待などによる長期反復型のトラウマは「複雑性PTSD」の症状を呈する可能性が高い。
治療は、国際的にEBP(evidence-based practice)の導入が主流であり、トラウマフォーカスト認知行動療法(TF-CBT)、家族のための代替案:認知行動療法(AF-CBT)、親子相互交流療法(PCIT)などが行われている。
被害児童にとって1番重要なことは“被害の場から離れる”ことで、さらに、安全・安心・安眠の確保と、安定した養育環境が必須だという。回復と成長には非専門家による心身のケアが必要であり、適切な対応は、虐待の世代間連鎖をブロックし、将来的な虐待の予防につながるため、社会的なサポートの充実が求められる。
普段の診療時、疑わしい患者を見過ごさないこと
米国で行われた逆境的児童期体験(ACE)研究によると、18歳までに受けた虐待などの逆境体験は、精神疾患ばかりでなく、知的発達や学習能力へも影響し、体験数に比例して慢性身体疾患のリスクを高めることが明らかになっている。
同氏は「専門医でなくても、虐待やDVに関与する患者を診る機会は意外とあると思う。とくに、はっきりとした理由なく向精神薬を繰り返しもらいに来る女性患者には注意が必要。こちらから聞くと、答えてくれることもある。そういう人たちを見過ごさないようにすることも大切」と語った。
(ケアネット 堀間 莉穂)