知ることから始める、多発性硬化症患者が輝く社会への転換

提供元:ケアネット

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公開日:2019/05/07

 

 2019年4月22日、バイオジェン・ジャパンとエーザイは、5月30日のWorld MS Day(世界多発性硬化症の日)に先駆け、「20-40歳代の女性に多く発症する神経疾患『多発性硬化症(MS)』~働き盛り世代の健康・家庭・仕事の両立に大きなインパクト~」と題するメディアセミナーを開催した。

 多発性硬化症(以下、MS)は、日本では女性の患者数が男性の2.9倍で、20~40歳代で多く発症するとされる。この年代の女性は就職や出産、育児などのライフイベントが多く、社会への影響が大きいと考えられる。本セミナーでは、河内 泉氏(新潟大学 脳研究所・医歯学総合病院 神経内科 講師)が、MSの疾患概要と、MS患者が活躍できる社会の実現に向けた思いを語った。

患者数が増えても周囲からの理解は得られにくい

 MSは、自己免疫因子が神経細胞に存在する髄鞘に障害を起こし(脱髄)、神経伝導を正常に行えなくすることで、さまざまな神経症状が現れる疾患である。MSの特徴としては、症状の再発と寛解を繰り返すことがある。日本では1970年代から直線的にMSの患者数が増加しており、現在は2万人以上の患者がいるとされている。

 MSでは、神経の障害が起こる部位に応じて、人それぞれで異なる症状が現れる。代表的な症状としては歩行障害、視覚障害、感覚障害、うつ、疲労感、排尿障害などがある。歩行障害などは症状が表に現れるため周囲も理解しやすいが、視力障害や感覚障害などは理解されにくく、周りからのサポートも受けにくいのが現状である。

MSの薬物治療の進歩

 MSの治療目標は自己免疫をコントロールすることである。日本においては、2000年頃からMSの再発予防・進行抑制のための疾患修飾薬(以下、DMD)による治療が始まった。現在はインターフェロンβ1a、インターフェロンβ1b、グラチラマー酢酸塩、フマル酸ジメチル、フィンゴリモド、ナタリズマブの6種類のDMDが国内で承認されており、貢献度・満足度の高い薬の選択肢が増えてきている。

 河内氏は、DMD治療を継続することで、身体機能が障害されない状況を維持できる患者が多くなってきていると語った。

法整備は進んでも、行き届かない就労支援

 難病を持つ患者にとって「仕事と治療の両立」は達成すべき大きな課題である。日本では近年、「障害者雇用促進法」の改正など、難病と就労に関する法整備が進んできている。しかし、疾患の重症度によって受けられる支援が異なり、理解されにくい症状を持つ患者は就労支援を受けにくい傾向があるという。また、36%の患者がMSのために離職や転職をした経験があるとの報告1)も紹介された。MS患者では、症状により仕事のパフォーマンスが低下するプレゼンティーズムの問題があるほか、MSに対する偏見によって不当に面接で不採用になったり、周囲から差別を受けたりすることもあるという。

 河内氏は、現在でもMS患者は家族や同僚のサポートが得られにくい状況にあり、MS患者の就労のために社会の価値観を転換させていくことが今後の課題である、との見解を示した。

治療と出産・子育てとの両立

 1950年以前には、女性のMS患者は病気が悪化するという理由で妊娠や出産を諦めるよう指導されていた。しかし、現在では、MSは自然流産や死産、先天奇形を増やす原因にはならないことが知られている。さらにDMDの開発により疾患活動性のコントロールが可能になり、女性のMS患者の妊娠、出産、育児が可能な時代になったといえる。河内氏は、MS患者が安心して子供を産んで育てるために、プレコンセプショナル・ケアとして母性内科学を発展させたうえで、疾患や薬について患者に指導をしていくことが大切であると強調した。

(ケアネット 生島 智樹)