インフルエンザワクチンは次シーズンの流行予測に基づき、ワクチン株を選定して毎年製造される。そのため、新たな変異株の出現と拡大によるパンデミックの可能性に、世界中がたえず直面している。米国国立衛生研究所(NIH)は4月3日、インフルエンザウイルスの複数サブタイプに長期的に対応する“万能(universal)”ワクチン候補の、ヒトを対象とした初の臨床試験を開始したことを発表した。
この新たなワクチン候補は、菌株ごとにほとんど変化しない領域に免疫系を集中させることで、さまざまなサブタイプに対する防御反応を行うよう設計された。本試験は、米国国立アレルギー感染症研究所のワクチンリサーチセンター(VRC)が主導している。
複数サブタイプに長期的に有効となりうる理由は?
インフルエンザウイルス表面には、ウイルスがヒト細胞に侵入することを可能にする赤血球凝集素(HA)と呼ばれる糖タンパク質があり、感染防御免疫の標的抗原となっている。新たなプロトタイプワクチンH1ssF_3928では、HAの一部を非ヒトフェリチンからなる微細なナノ粒子の表面に表示する。インフルエンザウイルスにおけるHAの組織を模倣するので、ワクチンプラットフォームとして有用だという。
HAは、頭部領域および茎領域からなる。ヒトの体は両領域に免疫反応を起こすが、反応の多くは頭部領域に向けられている。しかし、頭部領域は抗原連続変異と呼ばれる現象が次々と起こるため、ワクチンは毎年の更新が必要となる。H1ssF_3928は、茎領域のみで構成された。茎領域は頭部領域よりも安定的であるため、季節ごとに更新する必要はなくなるのではないかと期待されている。
VRCの研究者らは、H1N1インフルエンザウイルスの茎領域を使ってこのワクチン候補を作成した。H1はウイルスのHAサブタイプを表し、N1はノイラミニダーゼ(NA、もう1つのインフルエンザウイルス表面糖タンパク質)サブタイプを表す。18のHAサブタイプと、11のNAサブタイプが知られているが、現在は主にH1N1とH3N2が季節的に流行している。しかし、H5N1やH7N9、および他のいくつかの株も、少数ながら致命的な発生を引き起こし、それらがより容易に伝染するようになればパンデミックを引き起こす可能性がある。
H1ssF_3928は、動物実験において異なるサブタイプであるH5N1からも保護効果を示した。これは、このワクチンにより誘導された抗体がH1とH5を含む「グループ1」内の他のインフルエンザサブタイプからも保護可能なことを示す。VRCでは将来的な臨床試験として、H3とH7を含む「グループ2」サブタイプから保護するように設計されたワクチンも評価することを計画している。
健康な成人における抗原性、安全性と忍容性を調べる第I相試験
第I相臨床試験には、18~70歳までの健康な成人少なくとも53人が、段階的に組み入れられる。最初の5人の参加者は18~40歳で、H1ssF_3928(20µg)の筋肉内注射を1回受ける。残りの48人は、H1ssF_3928(60 µg)を16週間間隔で2回受ける予定となっている。
参加者は年齢によってそれぞれ12人ずつ4つのグループに層別される予定である(8~ 40歳、41~49歳、50~59歳、60~70歳)。研究者らは、H1ssF_3928に対する免疫反応が、年齢およびさまざまなインフルエンザ変異型への曝露歴に基づいてどのように変化するかを明らかにしたいと考えている。参加者は、接種後1週間、体温およびあらゆる症状を記録するよう求められる。また、12~15ヵ月の間に9~11回フォローアップ受診し、血液サンプルを提供する。研究者らはそのサンプルにより、インフルエンザに対する免疫を示す抗インフルエンザ抗体のレベルを特徴付けて測定する。なお、参加者が試験中にインフルエンザウイルスに曝露されることはない。
VRCでは、この臨床試験を長年の関連研究開発の集大成と位置付けている。2019年末までの登録完了、2020年はじめの結果報告開始を予定している。
■参考
NIHニュースリリース
NCT 03814720(Clinical Trials.gov)
(ケアネット 遊佐 なつみ)