エタノールベースの擦式手指消毒薬は広く普及し、医療機関や学校など多くの場所で手指衛生・接触感染予防を目的に使われている。しかし以前の研究で、粘液中の病原体に対してエタノール消毒の有効性が低下する可能性が示唆されている。京都府立医科大学の廣瀬 亮平氏らは、エタノール消毒薬による季節性インフルエンザAウイルス(IAV)の不活性化メカニズムを調べ、その効果が手指に付着した感染性粘液が完全に乾燥するまでの間は大幅に低下することを明らかにした。一方、手洗いによる手指衛生は、乾燥および非乾燥の感染性粘液に対してともに効果的であることが確認された。mSphere誌オンライン版9月18日号への報告より。なお、本研究については、11月27日にmSphere誌オンライン上でレターが掲載され、議論が行われている。
研究者らはまず、IAVに感染した患者の上気道由来粘液を使用して、IAVの不活化試験とエタノール濃度測定を実施。物性解析の結果、感染性粘液は粘度が非常に高く、生理食塩水と比較してエタノールの拡散/対流速度が遅くなることが明らかになった。「エタノール濃度がIAV不活性化レベルに達する時間」すなわち「エタノール消毒薬がIAVを完全に不活性化するのに必要な時間」は、生理食塩水条件下より粘液条件下の方が約 8 倍程度長い結果となった。
続いて、10人のボランティアの手指に付着した感染性粘液中のIAVに対する、流水と80%エタノール消毒薬の有効性を評価した。その結果、流水によりIAVは30秒以内に完全に不活性化されたが、エタノール消毒薬では、120秒後も不活性化されなかった。
一方で、感染性粘液が完全に乾燥した条件(本研究では約30~40分間と想定)においては、エタノール消毒薬は30秒以内に粘液中のIAVを不活性化した。また、物理的に感染性粘液を洗い流す流水による手洗いでも、30秒以内にIAVを不活性化した。
これらの結果および議論を受けて研究者らは、本研究は基礎研究であり、手を擦り合わせる動作による効果等、実使用を再現した評価系でのさらなる検討が必要とした。そのうえで、感染性粘液が付着した(あるいは付着が疑われる)状況では、エタノール消毒薬による擦式手指消毒の効果を過信せず、手洗いをこまめに行うことでより高い消毒効果が得られる可能性があるとしている。
(ケアネット 遊佐 なつみ)