国内外で感染が拡大している新型コロナウイルス(2019-nCoV)を巡り、日本感染症学会と日本環境感染学会は、1月29日付で共同声明を出した。各学会員に対し、今後も本ウイルスについて継続的に観察および評価しつつも、「冷静な対応が必要」と呼び掛けている。
声明の主なポイントは以下のとおり。
(1)感染症の専門家として冷静な対応を
情報が限られている中での難しい判断が必要だが、信頼できる情報を参考に本ウイルスの感染性、病原性を考慮した対応を指導してほしい。
(2)2019-nCoVの病原性や伝播性が変化する可能性否定できず、継続観察が必要
2019-nCoVが、遺伝学的にSARS-CoVに近縁であることが報告されている。現段階で変異を起こしているという情報はないものの、外来遺伝子の獲得や突然変異により常に強毒化する可能性が考えられ、今後本ウイルスの病原性や伝播性が変化する可能性も否定できないことから、継続した観察が必要。
(3)感染伝播の現状、広がりの可能性は推定難しい状況
現在、武漢市を中心に、ほぼ中国全土で感染例が報告されている。世界的には、日本をはじめ、アジア、米国、欧州など、20を超える国と地域で感染例が報告されている。これから数週間に渡って、検査人数の増加と相まって2019-nCoV感染患者の増加が予想されるが、感染源不明の2次感染例の検出頻度が重要な情報となる。2次感染例の推移を参考に、2019-nCoVの感染性および今後の広がりについての評価が重要となる。
(4)2019-nCoVが直接原因の重症例・死亡例は、正しい評価困難
2019-nCoV感染例を巡っては、日々、刻々と状況が変化し、正確な数を把握できないことから、致死率および重症化率を推定することは困難。しかし、死亡数だけを見て国民がパニックになることが最も危険である。気を緩めることなく、感染症の専門家としての知識と経験を総動員し、冷静な対応が求められる。
(5)感染対策は、標準予防策+飛沫・接触予防策の徹底
コロナウイルスは原則として飛沫感染で伝播し、現時点では空気感染の可能性はきわめて低い。そのため、感染対策は標準予防策に加えて飛沫・接触予防策の徹底が基本となる。ウイルスで汚染した手指を介した目・口の粘膜からの感染伝播にも注意。気管吸引、挿管などエアロゾル発生リスクが高い処置を行う場合には、一時的に空気感染のリスクが生じると考えられ、N95マスクを含めた空気予防策の実施も必要。
(6)指定感染症となった2019-nCoV、公費負担で隔離可能に
1月28日、2019-nCoVを指定感染症とする政令が閣議決定され、2月1日から施行される。これにより、2019-nCoV患者を医療費の公費負担の下で隔離できるようになる。また、武漢市など中国からの訪問者で、臨床症状や検査から肺炎が疑われる場合には、ただちに行政機関に報告する必要がある。
(7)2019-nCoV関連の重要情報
1.厚生労働省:新型コロナウイルスに関するQ&A
2.国立感染症研究所
3.CDC情報
WHOが30日付で緊急事態宣言
WHO(世界保健機関)は、1月30日、2019-nCoVについて「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言した。緊急事態宣言は、アフリカ・コンゴで発生したエボラ出血熱の感染が拡大した2019年7月に出されて以来で、今回で6例目となる。
(ケアネット 鄭 優子)