4月から遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)の既発症者に対する、リスク低減乳房切除術(RRM)、乳房再建術ならびにリスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)が保険収載となった。これを受けて日本乳癌学会では、4月1日にホームページ上で「遺伝性乳がん卵巣がん症候群の保険診療に関する手引き」を公開している。なお、手引きの冒頭では、本手引きがガイドラインあるいはガイダンスではなく、エビデンスが蓄積していない内容も含まれると説明。そのため、HBOC診療に当たっては施設内で医療者のコンセンサスと患者・家族への十分な説明を求めるとともに、手引きについては今後もバージョンアップを図っていくと記されている。
予防的切除が推奨される患者と年齢
日本人女性の乳がん罹患者数は10万人超と推計されるが、その5~10%がHBOCであり、全乳がんの4%が
BRCA1/2遺伝子変異に起因する乳がんである。HBOCは稀な疾患ではなく、日本国内でも年間数千人の女性が乳がんあるいは卵巣がんの治療をされていると推測される。また、その近親者も2分の1の確率で遺伝子変異を受け継いでいる可能性がある。
乳がん既発症者に
BRCA1/2遺伝子変異が判明すれば、リスク低減手術などにより、健側の乳がんの発症と、卵巣がんの発症のリスクを下げることが可能となる。乳がんは30歳頃から、卵巣がんは40歳頃から発症率が上昇するので、RRMは40歳まで、RRSOは50 歳までに実施することが勧められる。
BRCA遺伝学的検査、保険適応の対象となるのは
BRCA遺伝学的検査が保険適応となるのは、乳がん既発症例の中では、以下のいずれかの項目に当てはまる場合に対象となる:
・45歳以下の発症
・60歳以下のトリプルネガティブ乳がん
・2個以上の原発乳がん発症
・第3度近親者内に乳がんまたは卵巣がん発症者がいる
・男性乳がん
また、卵巣がん、卵管がんおよび腹膜がん既発症例と、従来からのPARP阻害薬に対するコンパニオン診断の適格基準を満たす場合に保険適用となる。
本手引きではそのほか、BRCA遺伝学的検査およびRRM、RRSOの施設要件や、HBOC 診療のフローチャートなども提示されており、下記の全14項目で構成されている。
1)これまでのHBOC診療
2)HBOC診療の保険収載の意義
3)BRCA遺伝学的検査の施設要件
4)RRM、RRSOの施設要件
5)乳がんまたは卵巣がん患者の遺伝カウンセリング
6)RRMと乳房再建術
7)健側乳房の病理学的検査
8)RRSO
9)BRCA遺伝子変異患者の近親者への遺伝カウンセリング
10)BRCA遺伝子変異患者と近親者におけるサーベイランス検査
11)BRCA遺伝学的検査の保険診療と自費診療の区分
12)NCD乳癌登録
13)HBOC診療のフローチャート
14)HBOCを学ぶためのツール集
(ケアネット 遊佐 なつみ)