多発性硬化症の病態に関わる免疫細胞の新知見

提供元:ケアネット

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公開日:2021/03/05

 

 2021年2月17日、ノバルティス ファーマは、『MS病態への関与が示唆される「B細胞」とは? ~免疫の仕組みとMS治療の課題~』と題するメディアセミナーを開催した。

 多発性硬化症(以下、MS)は自己免疫疾患の1つとして知られている。国内の推定患者数は約1万5千人以上と考えられており、女性の患者数が男性の約2.9倍といわれている。平均発症年齢は30歳前後、発症のピークは20代であり、就職や出産、育児などのライフイベントが多い時期と重なるため、社会への影響が大きい疾患であると考えられる。

 本セミナーでは、野原 千洋子氏(東京都保健医療公社荏原病院 神経内科 部長)が、近年MS病態に直接関与していると注目されている「B細胞」にフォーカスしながら、MSと免疫の仕組みについて講演を行った。

周囲から理解されにくい症状に悩まされる

 MSは、中枢神経における神経細胞の軸索を覆うように存在しているミエリンが破壊され、「脱髄」と呼ばれる病変が多発する疾患である。ミエリンは、動作や感覚などの情報が神経を通じてスムーズに伝達されるように助ける役割を持つ。脱髄が起こると、中枢神経における情報伝達に障害が生じ、さまざまな症状を引き起こしてしまう。

 MSでは、脱髄の起こった部位によって異なる症状が現れる。歩行障害や運動障害といった周囲から見てもわかりやすい症状がある一方で、視野障害や感覚障害、認知機能障害、排尿・排便障害といった周りから見えづらい症状が起こる場合もある。野原氏は、「MSは周囲から理解されにくい症状が多く、早期の診断、治療が重要である」と指摘した。

T細胞だけではない? MS病態へのB細胞の関与

 MSの発症原因の詳細はいまだ不明であるが、獲得免疫であるT細胞/B細胞の免疫寛容の破綻が原因とされている。従来、MSはT細胞が主に関わる自己免疫疾患のモデルであるといわれていた。しかし、近年MSの発症前から進行期へと至る一連のステージにおいて、B細胞による病態への関与も示唆されるようになったという。

 MSの発症においては、ヘルパーT細胞は二次リンパ組織内で抗原提示細胞により活性化された後、Th1細胞やTh17細胞として血液脳関門を通過する。そうして中枢神経系に侵入したTh1細胞やTh17細胞は、炎症性サイトカインを産生し、マクロファージやキラーT細胞を活性化させる。その結果、神経が傷害され脱髄を引き起こす、という発症メカニズムが考えられていた。

 しかし、このメカニズムの中で、T細胞のTh1細胞やTh2細胞への分化、炎症性サイトカインの産生を介したT細胞の活性化、Th1細胞の自己増殖の促進にB細胞が寄与していることが明らかになった。さらに、こうしたB細胞とT細胞の相互作用に加えて、B細胞が中枢神経系において単独で自己抗体を産生し、脱髄を引き起こすことも明らかになったという。

 実際にMSの発症や再発において、B細胞の自己抗体産生を反映したオリゴクローナルバンドの検出率が上昇したとされる報告や、B細胞の活性化マーカーであるCXCL13(ケモカインの一種)の髄液中での濃度上昇が認められた報告もあるという。さらに、二次進行型MS患者においてはB細胞のリンパ濾胞様構造が認められたという報告もあり、野原氏は「MSの臨床経過の一連のステージにおいて、B細胞は大きな役割を担っている」と語った。

B細胞をターゲットにした治療への期待

 B細胞がMSの病態に関わるのであれば、当然B細胞が治療のターゲットとして考えられる。実際にB細胞除去療法を行った結果では、T細胞の異常な活性化を抑えることで、IL-17やIFN-γといったMS病態を進行させるサイトカインの産生が抑制されるという。野原氏は「MSの病態にはB細胞が深く関与していることが明らかになってきており、海外ではB細胞をターゲットにした治療薬の承認も得られている。今後、B細胞に関わるさらなる知見が得られることに期待したい」と締めくくった。

(ケアネット 生島 智樹)