本邦では、80代あるいは90代の心房細動患者も少なくないが、最適な抗凝固療法は必ずしも明らかになっていない。85歳以上の超高齢者が約25%を占める、3万例超の日本人高齢非弁膜症性心房細動(NVAF)患者の大規模レジストリ(ANAFIE)の結果を、第85回日本循環器学会学術集会(2021年3月26日~28日)で井上 博氏(富山県済生会富山病院)が発表した。
高齢NVAF患者での抗凝固療法の臨床転帰、DOACをワルファリンと比較
ANAFIEレジストリは、日本人高齢NVAF患者におけるリアルワールドでの抗凝固療法の使用状況と臨床転帰を調査するために実施された、多施設共同前向き観察研究。75歳以上のNVAF患者を登録、2年間の追跡調査が行われた。
脳卒中/全身性塞栓症(SEE)、大出血、および2年間の全死因死亡の発生率は、カプランマイヤー分析によって推定された。各イベントのハザード比は、治療群(抗凝固薬なし、ワルファリン[WF]、およびDOAC)間のCox比例ハザードモデルを使用して分析された。
75歳以上のNVAF患者を2年間追跡調査したANAFIEレジストリの主な結果は以下のとおり。
・2016年10月~2018年1月に33,278例のNVAF患者が登録され、32,275例が解析対象とされた。
・平均年齢は81.5歳、85歳以上は26.1%(8,419例)含まれた。男性:57.3%、平均CHA2DS2-VAScスコア:4.5、平均HAS-BLEDスコア:1.9、発作性心房細動:42.1%/持続性心房細動:16.5%/長時間持続性・永続性心房細動:41.4%であった。
・92.4%が経口抗凝固薬による治療を受けていた(ワルファリン:25.5%、DOAC:66.9%)。
・DOACの投与状況は通常用量(appropriate:17.7%、overdose:3.2%)、減量用量(appropriate:44.2%、underdose:16.8%)。
・ワルファリンの平均至適範囲内時間(TTR)は75.5%であった。
・平均追跡期間1.88年における各イベントの発生率は以下のとおり:
脳卒中/SEE(全体:3.01%、85歳未満:2.69%、85歳以上:3.91%)
大出血(全体:2.00%、85歳未満:1.80%、85歳以上:2.55%)
頭蓋内出血(全体:1.40%、85歳未満:1.28%、85歳以上:1.76%)
心血管死亡(全体:2.03%、85歳未満:1.39%、85歳以上:3.85%)
全死因死亡(全体:6.95%、85歳未満:4.89%、85歳以上:12.77%)
net clinical outcome(全体:10.14%、85歳未満:7.92%、85歳以上:16.44%)
・転倒歴(登録前1年以内)、カテーテルアブレーション歴が、脳卒中/SEE、大出血および全死因死亡の独立したリスク因子であり、多剤併用は大出血および全死因死亡と関連していた。
・ワルファリン群と比較して、DOAC群では出血性脳卒中および消化管出血を除く全てのイベントリスクが低く、抗凝固薬なし群では脳卒中/SEEおよび全死因死亡のリスクが高かった。
これらの結果を受けて井上氏は、日本人高齢NVAF患者においてDOACは広く用いられており、良好にコントロールされたワルファリン投与群と比較して、脳卒中/SEE、大出血および全死因死亡リスクが有意に低かったとして発表を締めくくった。
(ケアネット 遊佐 なつみ)