日本国内で確認されたワクチン接種後の感染例130例について、積極的疫学調査が実施され、2回目のワクチン接種後14日以降が経過した症例でも、一部で感染性のあるウイルスが気道検体中に検出された。7月21日開催の第44回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードで、国立感染症研究所感染病理部の鈴木 忠樹氏が、「新型コロナワクチン接種後に新型コロナウイルス感染症と診断された症例に関する積極的疫学調査(第一報)」について報告した。
本調査の主な目的は、1)ワクチン接種後感染の実態把握、2)ワクチンにより選択された(可能性のある)変異株の検出、3)ワクチン接種後感染者間でのクラスターの探知であり、今回の報告は2021年6月30日時点における疫学的・ウイルス学的特徴の暫定的なまとめと位置付けられている。
[調査方法]
・2021年4月1日~6月30日までに
1)医療機関・自治体からワクチン接種後感染として感染研に直接報告があった症例
2)新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理システム(HER-SYS)に登録のあった感染者(ワクチン2回目接種日を0日として最初に検査陽性検体が採取された日まで14日以上経過)で、感染研から医療機関・自治体への問い合わせで協力が得られた症例
について、患者・疫学情報や検体を収集した。
・症例情報については本調査独自の症例報告書様式を作成し収集した。
・気道検体は、N2領域のPCR再検での陽性例について、N501Y(アルファ株、ベータ株、ガンマ株等で認める)、E484K(ベータ株、ガンマ株等で認める)、L452R(デルタ株等で認める)変異を検出するPCRスクリーニング(変異検出PCR)およびウイルス分離試験を実施し、検体中のウイルスN2領域のPCRの結果、ウイルスRNA量が十分量あると判断された検体については、ウイルスゲノム解析を実施した。
・1回目接種後14日~2回目接種後13日まで、2回目接種後14日以降について分けて解析した。※ただし現状では、集団の違い(医療従事者および高齢者の割合、接種時期、感染時期等)から、単純にこれらの2群を比較して解釈すべきではない。
主な結果は以下のとおり。
・27都道府県から130例(うち2回目接種後14日以降67例)が報告された。医療従事者が106例(81.5%)を占める。
・年齢中央値は44.5(20~98)歳、男性37例(28.5%)、女性93例(71.5%)であった。 ・免疫不全のある者(原発性免疫不全症、後天性免疫不全症候群など、[狭義の]免疫不全の診断を受けた者)はいなかったが、ステロイド等の免疫抑制剤の使用歴は3例(2.4%)で認めた。
・接種していたワクチンは、121例(97.6%)がファイザー社製であった。
・接触歴ありが92例(75.4%)を占めた(うち2回目接種後14日以降50例)。
・症例報告書提出時点での重症度は、65例(50%)が無症状、60例(46.2%)が軽症、5例(3.8%)が中等症で、重症例はいなかった。
・6月30日時点で、気道検体については101例(うち2回目接種後14日以降50例)が収集され、N2領域のPCR再検で68例が陽性となり、Ct値の中央値(範囲)は29.4(15.9~38.4)であった。
・ウイルス分離可能であったのは分離を試行した58例中16例。変異検出PCRは68例で実施し、ウイルスゲノム解析が完了したのは39例であった。
・ウイルスゲノム解析を実施した39例中、B.1.1.7系統(アルファ株)30例(うち2回目接種後14日以降12例)、R.1系統4例(0例)、B.1.617.2系統(デルタ株)4例(2例)、P.1系統(ガンマ株)1例(0例)を認めた。また、各系統特異的なスパイクタンパクの変異を除いては、免疫を逃避する可能性のあるスパイクタンパクへの新規の変異は認めなかった。
中間解析時点では、特殊な疫学的特徴はみられず
本報告では症例の大多数が優先接種対象の医療従事者であり、若年層が多く、無症状でも検査対象となる機会が比較的多いことなどもあり、多くが軽症および無症状であったと考察。高齢者への接種も現在では進んでおり、今後はそれらの知見も収集していくことが重要としている。
男女比については、内閣官房HPに公開されているワクチン接種記録システムの集計値において4月12日~4月25日の2週間で、(医療従事者が想定される)65歳未満の男女比は1:3程度と本報告の男女比と同程度であった。免疫不全や免疫抑制剤を使用している者は1割未満であった。
上記より、中間解析の時点では、特殊な疫学的特徴をもつ集団ではないことが示唆されたと考察されている。
2回目接種後も感染性のあるウイルス検出
ワクチン1回目接種後のみならず2回目接種後14日以降においても、一部の症例では感染性のあるウイルスが気道検体中に検出されたことから、二次感染リスクも否定できないことがわかった。また、ワクチン接種後感染例から検出されたウイルスは、ワクチン接種により付与された免疫を回避できる新規の変異を有するウイルスではなく、同時期に国内各地域で流行しているウイルスであった。これらの結果より、ワクチン接種後であっても、その時点で流行しているウイルスに感染することがあること、および、ワクチン接種後感染例の一部では二次感染しうることが示唆され、ワクチン接種者における感染防止対策の継続は重要と考えられた。
今後は、ワクチン接種後であっても、新型コロナウイルス感染の疑いがある場合(有症状・接触者等)は積極的に検査を実施し、陽性検体の一部については、免疫逃避能を有する新たな変異ウイルスの出現の監視など、病原体解析を継続して実施していく必要があるとしている。
(ケアネット 遊佐 なつみ)