慢性心房細動(AF)と心不全を伴う患者において、房室結節アブレーションと両心室ペースメーカー(CRT)による厳格かつ規則正しい心室レートの維持は、薬物療法に比べ、心不全の入院を減らすのに優れているが、予後の改善については未だ不明である。イタリア・ティグッリオ病院Brignole氏ら研究グループは、慢性AFと心不全を有する患者に対し、房室結節アブレーション+CRTと薬物療法とを比較する無作為化試験を実施した。European Heart Journal誌オンライン版2021年8月28日号での報告。
対象はQRS幅が狭い、慢性AF患者
本試験は、多国間オープンラベルの盲検試験である。重い症候性の6ヵ月以上持続する慢性AFで、QRSが狭く(<110ms)、前年に心不全で少なくとも一度は入院したことがある患者を、房室結節アブレーション+CRT群もしくは薬物療法によるレートコントロール群にランダマイズした。
著者らは、房室結節アブレーション+CRT群が主要評価項目である全死亡をより減らすことができると仮定し、患者133例が無作為化された。平均年齢は73±10歳、62名(47%)は女性だった。なお、約60%の患者はEFが>35%であった。
房室結節アブレーション+CRT群で全死亡が有意に良好
試験は、平均29ヵ月のフォローアップ期間における暫定的な分析で有効性が確認されたため、中止された。なお、薬物療法群に割り付けられた70例中18例が房室結節アブレーション+CRT群へとクロスオーバーしていた。房室結節アブレーション+CRT群では、心室レートは70拍/分、薬物療法群では82拍/分であった。主要評価項目(全死亡)は、房室結節アブレーション+CRT群で7例(11%)、薬物群では20例(29%)だった(ハザード比[HR]:0.26、95%信用区間[CI]:0.10~0.65、p=0.004)。推定された死亡率は、それぞれ2年で5% vs. 21%、4年で14% vs. 41%であった。房室結節アブレーション+CRT群で得られるメリットは、EF≦35%および>35%の患者で同様だった。副次評価項目である全死亡率と心不全での入院についても、房室結節アブレーション+CRT群で有意に低かった(18例[29%] vs.36例[51%]、HR:0.40、95%CI:0.22~0.73、p=0.002)。
房室結節アブレーション+CRTはEFに関わらず、薬物療法よりも良好な予後
慢性AFでQRS<110msの患者において、房室結節アブレーション+CRTの組み合わせは薬物療法よりも死亡率を減少させ、その効果はベースラインのEFとは無関係に認められた。一般的に、洞調律患者に比べると、AF患者ではCRTの効果が低下すると言われている。しかしながら、この試験では、薬物療法群の心拍数がコントロールされていたのにも関わらず、房室結節アブレーション+CRT群の予後が良かったのは、心室レートの規則性を維持することが心不全の予防と関連している可能性を示唆しているのではないかと考える。右室ペーシングは、生理的なペーシングではないため、心不全の増悪を引き起こす可能性がある。一度、房室結節アブレーションを行うと、心不全が増悪しても後戻りできないため、右室ペーシング+房室結節アブレーションを行うことがためらわれる症例は多い。近年ではCRTに加えて、左脚ペーシングも生理的なペーシングとして、積極的に行われている。この論文の結果を踏まえると、心不全で入退院を繰り返す慢性AF患者では、たとええQRS幅が狭くても、CRTや左脚ペーシングと組み合わせて、房室結節アブレーションを行うことは有効な選択肢として考えるべきであろう。
(Oregon Heart and Vascular Institute 河田 宏)
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