国立がん研究センター東病院が中心に進める肺がんの遺伝子スクリーニングプロジェクト「LC-SCRUM-Asia」が、非小細胞肺がん(NSCLC)の新しいドライバー遺伝子「CLIP1-LTK融合遺伝子」を世界で初めて発見した。また、このドライバー遺伝子変異には、治療薬としてALK-TKIのロルラチニブが有効である可能性が示されている。
試験結果は、Nature誌2021年11月14日号に掲載され、第62回日本肺癌学会学術集会では、国立がん研究センター東病院の松本慎吾氏により発表された。
さらなるドライバー遺伝子の発見と治療薬の開発が求められるNSCLC
NSCLCでは、ドライバー遺伝子が相次いで発見されるととも、それに対応する分子標的薬が登場することで治療成績が著しく向上している。
とはいえ、50〜60%のNSCLCではドライバー遺伝子が存在しない。そのため、新たなドライバー遺伝子の発見と治療薬の開発が求められている。
そのような中、
CLIP1-
LTK融合遺伝子は、新たなドライバー遺伝子を検索するためLC-SCRUM-Asiaが行った、既知のドライバー遺伝子陰性のNSCLC対象の全RNAシークエンス検査により世界で初めて発見された。
CLIP1-LTK融合遺伝子の頻度は0.4%、他ドライバー遺伝子とは相互排他的
CLIP1-
LTKはLC-SCRUM-Asiaがスクリーニングした542例中2例で検出された。発現頻度は0.4%である。
検出例はすべて腺がんで、既知のドライバー遺伝子とは相互排他的に認められた。
基礎的検討の結果、
CLIP1-
LTK融合タンパクはLTKキナーゼの恒常的な活性化を引き起こすドライバー遺伝子であることが明らかになった。
CLIP1-LTKはアクショナブル、治療薬はロルラチニブか
LTK遺伝子は
ALK遺伝子と相同性が高いため、ALKキナーゼ阻害薬の多くはLTKキナーゼを阻害すると報告されている。このことから、7種のALK阻害薬の効果を細胞実験で検討した。
その結果、とくにロルラチニブのキナーゼ活性抑制が明らかとなった。また、ロルラチニブの抗腫瘍効果は動物実験でも示されている。
これら基礎研究の結果に基づき、
CLIP1-
LTK陽性のNSCLC患者にロルラチニブを投与したところ、著名な効果を示した。
LC-SCRUM-Asiaでは今後、
CLIP1-
LTKのスクリーニングと治療薬の有効性を検証する臨床試験を計画中である。
(ケアネット 細田 雅之)