日本のコミュニティベースの心房細動(AF)コホートである伏見AFレジストリは、京都市伏見区で2011年3月から実施されているAF患者の前向き観察研究で、患者登録は2017年5月まで行われた。今回、2022年2月までの追跡調査データを入手できた4,489例の抗血栓療法状況および主要有害イベントの発生を調査した結果を、第86回日本循環器学会学術集会(2022年3月11日~13日)で赤尾 昌治氏(国立病院機構京都医療センター循環器内科)が発表した。なお、本結果はCirculation Journal誌オンライン版2022年3月13日号に同時掲載1)された。
DOAC投与群はAF患者の有害イベントの発生率が低下
本研究が開始された2011年以降、新規の直接経口抗凝固薬(DOAC)が相次いで承認され、この10年間で心房細動の抗血栓療法が大きく変化した。今回、伏見AFレジストリに登録された4,489例(平均年齢:73.6歳[≧80歳:30.2%]、女性:40.4%、平均CHADS
2スコア:2.03)を、2011~13年に登録した3,490例と、2014~17年に登録した999例の2群に分け、主要有害イベントの発生について比較検証した。
DOAC承認でAF患者の主要有害イベントがどう変化したかを比較検証した主な結果は以下のとおり。
・AF患者の抗血栓療法における経口抗凝固薬の割合は、2011年は53%(ワルファリン:51%、DOAC:2%)だったが、2021年は70%(ワルファリン:18%、DOAC:52%)に増加した。経口抗凝固薬と抗血小板薬の併用は、2011年は14%だったが、2021年は7%に減少した。
・AF患者の抗血栓療法において、2011~13年登録群は経口抗凝固薬投与が53%(ワルファリン:48%、DOAC:5%)、抗血小板薬投与が29%だったのに対し、2014~17年登録群は経口抗凝固薬投与が65%(ワルファリン:18%、DOAC:47%)、抗血小板薬投与が17%だった。
・平均追跡期間1,844日(5.1年、最長10年)における、AF患者の主要有害イベントの発生率を2011~13年登録群と2014~17年登録群で比較すると、死亡は5.0% vs.4.2%(p<0.01)、心不全による入院は3.1% vs.3.6%(p=0.27)、脳卒中/全身性塞栓症は2.3% vs.1.6%(p<0.01)、大出血は2.0% vs.1.6%(p=0.07)で、心不全による入院を除く主要有害イベントの発生率が低下した。
・経口抗凝固薬によるAF患者の主要有害イベントの発生率について、ワルファリン投与群とDOAC投与群で比較すると、脳卒中/全身性塞栓症のハザード比(HR)は1.17(95%信頼区間[CI]:0.97~1.41、p=0.09)vs. 0.69(95%CI:0.49~0.96、p=0.03)、大出血のHRは1.32(95%CI:1.08~1.61、p<0.01)vs.0.99(95%CI:0.73~1.37、p=0.99)で、いずれもDOAC投与群が低かった。
・Cox比例ハザードモデルを用いた多変量解析より、脳卒中/全身性塞栓症の独立した危険因子として、75〜84歳(HR:1.70、95%CI:1.38~2.10、p<0.01)、85歳以上(HR:2.27、95%CI:1.68~3.07、p<0.01)、脳卒中/全身性塞栓症の既往(HR:1.72、95%CI:1.39~2.12、p<0.01)、慢性腎臓病(HR:1.31、95%CI:1.07~1.60、p<0.01)、体重50kg以下(HR:1.59、95%CI:1.24~2.05、p<0.01)が挙げられた。
・大出血の独立した危険因子として、腎機能異常(HR:1.92、95%CI:1.26~2.93、p<0.01)、出血の既往(HR:1.77、95%CI:1.39~2.26、p<0.01)、INR不安定(HR:2.17、95%CI:1.27~3.73、p<0.01)、65歳以上(HR:2.17、95%CI:1.58~2.97、p<0.01)、抗血小板薬使用(HR:1.25、95%CI:1.02~1.53、p=0.03)が挙げられた。
赤尾氏は「この10年間で抗血栓療法は大きく変遷し、心房細動患者における有害イベントの発生率は低下した」と発表を締めくくった。
(ケアネット 古賀 公子)