ドパミン過感受性精神病(DSP)は、抗精神病薬によるドパミンD2受容体のアップレギュレーションに起因すると考えられ、統合失調症患者の不安定な精神症状と関連している。抗精神病薬の長時間作用型注射剤(LAI)は、ドパミン過感受性のコントロールに有用である可能性が示唆されているが、LAIによる長期治療がドパミン過感受性精神病の発生や悪化にどのような影響を及ぼすかは、よくわかっていない。千葉大学の小暮 正信氏らは、ドパミン過感受性精神病の有無によりLAIによる長期治療の効果に違いがみられるかを検討した。その結果、ドパミン過感受性精神病患者に対する少なくとも3年間のLAI治療の有効性が確認され、LAI治療がドパミン過感受性精神病を悪化させる可能性は低いことが示唆された。著者らは、その要因として、LAI導入による抗精神病薬の総投与量の大幅な減少が挙げられる可能性があるとしている。Journal of Clinical Psychopharmacology誌オンライン版2022年6月17日号の報告。
ドパミン過感受性精神病群と非ドパミン過感受性精神病群でLAIの効果比較
対象は、3年以上のLAI治療が行われた統合失調症患者58例。LAI導入前3年間の医療記録からドパミン過感受性精神病の有無を確認し、ドパミン過感受性精神病群(30例)または非ドパミン過感受性精神病群(28例)に分類した。LAI導入後3年間の臨床経過を評価するため、LAI治療の効果を両群間で比較した。
ドパミン過感受性精神病の有無によりLAIによる長期治療の効果に違いがみられるかを検討した主な結果は以下のとおり。
・ドパミン過感受性精神病群と非ドパミン過感受性精神病群ともに、抗精神病薬投与量(LAIと経口剤の併用)の有意な減少、臨床全般印象度の改善度(CGI-I)の測定による有意な改善が認められた。
・各指標について両群間で差が認められなかったことから、ドパミン過感受性精神病の有無にかかわらずLAIの長期治療効果が類似していることが示唆された。
・平均して、ドパミン過感受性精神病群は非ドパミン過感受性精神病群と比較し、LAI導入前は高用量の抗精神病薬で治療されていたが、LAI導入後にそれらは標準用量の範囲内まで減少した(LAI導入前:1,004.8mg、LAI導入後:662.0mg)。
(鷹野 敦夫)