新型コロナウイルス感染症のパンデミック中に、日本の若年者(10~19歳)の自殺率はパンデミック前と比較して増加し、家族問題や人間関係の問題に起因する自殺が増加していたことを、東京大学医学部附属病院の後藤 隆之介氏らが明らかにした。パンデミックにより学校閉鎖などの前例のない感染防止対策が講じられ、若年者に多くのメンタルヘルスの課題をもたらしたが、これまでパンデミック中の若年者の自殺の傾向やその理由を調査した研究はほとんどなかった。The Lancet regional health. Western Pacific誌2022年8月10日掲載の報告。
調査は、厚生労働省発表の2016~20年の月別自殺率と、警察庁発表の2018~20年の自殺原因を用いて行われた。ポアソン回帰モデルを使用して変動を推計したイベントスタディデザインと分割時系列解析により、パンデミック前(2016年5月~2020年3月)とパンデミック中(2020年5月~2021年4月)の月別自殺率の変化を比較するとともに、自殺の原因(家族問題、精神疾患、人間関係の問題、学校問題)の変化を調査した。
主な結果は以下のとおり。
・10~19歳の若年者の自殺率は、パンデミック前と比較してとくに2020年8月から11月にかけて増加した。2020年11月の自殺率は前年比1.86倍(95%信頼区間[CI]:1.30~2.66)であった。
・自殺率は、2020年12月にはパンデミック前と同水準に近づいたが、2021年に入ってもわずかに上昇したままであった。
・分割時系列解析によると、自殺率は2020年5月から8月にかけて上昇(+0.099件/10万人の若年者/月、95%CI:0.022~0.176)し、2020年9月から12月にかけて減少(-0.086件/10万人の若年者/月、95%CI:-0.164~-0.009)した。
・すべての主な原因による自殺が2020年夏から秋にかけて増加しており、とくに家族問題や人間関係の問題に起因する自殺が増加していた。
・精神疾患に起因する自殺率は、パンデミック前の水準よりも2020年12月まで高いままであった。
これらの結果より、同氏らは「パンデミック中は若年者にメンタルサポートを提供するだけでなく、定期的な社会的交流の機会の提供が有益である可能性がある」とまとめた。
(ケアネット 森 幸子)