GEヘルスケア・ジャパン株式会社(以下、GEヘルスケア)と愛媛大学は、乳がんの早期発見・診断精度向上に向けた非侵襲的な検査方法を開発するべく2021年より共同研究を開始している。本研究では同医学部附属病院で得られた乳腺病変のデータに人工知能技術を使用した解析を行っており、その結果、画像データから乳腺病変の良悪性を鑑別できる可能性が示唆された。本結果は、12月6日の記者会見で発表されたもので、将来的に乳がんの診断や治療に伴う身体的負担や心理的不安、検査コストの低減につながる可能性がある。
乳がん領域において、検診のマンモグラフィ画像から病変検出や良悪性判定するためにCAD(Computer-aided diagnosis)が活用されるなど、人工知能による乳がん発症予測の実現化が期待され、実際に陰性のマンモグラフィ検査後5年以内の乳がん発症リスクを推定できることも報告されている1)。一方、精密検査では超音波検査や乳腺MRIを実施した後、米国放射線専門医会(ACR)が中心となって作成したガイドラインBreast imaging reporting and data system(BI-RADS)を用いて良悪性診断を行うが、人間による腫瘤の形・辺縁の評価や判別には限界があることから、診断方法の確立が望まれている。
そこで、GEヘルスケアと愛媛大学は「MRIによる各種定量値のマッピング画像を用いた人工知能による新たな乳腺病変の良悪性判定方法」の開発に着手。本研究に当たっている松田 卓也氏(同大学大学院医学系研究科医療情報学講座)らは、Synthetic MRIの“1回の撮像から複数種類の定量値マップが取得できる”という利点を用い、造影前後の乳腺Synthetic MRIのマッピング画像から得たRadiomics*特徴量(ヒストグラム特徴量とテクスチャー特徴量)を用いて、機械学習手法による乳腺腫瘤の良悪性鑑別に対する有用性を検討した。造影前後に行った水平断像のSynthetic MRIのsource imageからPD map、T1 map、T2 mapを作成し、それぞれからRadiomics特徴量88種類を抽出させる(88×3×2=528種類)。ただし、機械学習の性能維持のために計528特徴量から100種類の特徴量を選択(次元削減)するなどの処理を行った。
*Radiomics=Radiology(放射線医学)+Omics(すべて+学問)の意。医用画像の(多数の)特徴量を統計解析や機械学習に用いる手法のこと。
本研究の初期検討結果について、松田 卓也氏は「今後の性能向上(特徴量の追加[そのほかのMRI画像特徴量・臨床的因子]やカテゴリー判定と組み合わせた総合的アルゴリズム)を検討している。臨床応用のためにエビデンスを構築し、更なる検討を重ねていく」とコメント。松田 恵氏(同大学医学部附属病院 放射線部)は「今後、精度を上げていくことで生検が不要になり、医療コスト面からも貢献できる可能性がある」と話した。
(ケアネット 土井 舞子)