2019年冬、中国・武漢で新型コロナウイルス感染症が初めて発生し、その起源も生きた哺乳類が売られていた「海鮮市場」と研究報告もまとめられている1)。以来、新型コロナウイルス(以下、SARS-CoV-2)と食品との関連性については懸念が続いているが、SARS-CoV-2の食品での生存率と除去に関する研究はほとんど存在していない。そこで、韓国・中央大学校のSoontag Jung氏らがSARS-CoV-2の生存に最適な保管温度や素材を調査するために、レタス、チキン、サーモンにSARS-CoV-2を付着させ、温度や湿度を変化させて検証した。その結果、SARS-CoV-2の生存率は、保管温度と食品に依存しており、室温ではレタスとチキン上での生存率が低いことが明らかになった。Food Microbiology誌オンライン版2022年10月27日号掲載の報告。
本研究では、SARS-CoV-2 (L型/S型)をレタス、チキン、サーモンに付着させ、保管温度(20℃、4℃、-40℃)での生存率を食品マトリックスで評価した。さらに、食品マトリックスを不活性化させる消毒薬(エタノール、二酸化塩素[ClO2]、過酢酸[PAA])の有効性を評価した。
主な結果は以下のとおり。
・SARS-CoV-2は温度が20℃の場合では食品マトリックス上で3日以上は生存せず、SARS-CoV-2 L型と SARS-CoV-2 S型それぞれの半減期の推定中央値は、レタスでは3.47時間と2.60時間、チキンでは4.80時間と3.08時間で、レタスよりチキンでわずかに長かった。一方、ウイルスが最大2日間検出されたサーモン表面での半減期の推定中央値は、7.46時間と4.65時間で最も長かった。
・続いて、4℃での半減期の推定中央値を見ると、10日間にまで延長し、チキンでは生存率の差がL型とS型で違いが見られた。サーモンではSARS-CoV-2両型共に汚染後14日間、感染が維持された。
・-40℃ではL型/S型共に3つの素材上で4週間も生存し、とくにSARS-CoV-2 L型ではウイルス感染価(50% Tissue culture infectious dose [TCID50]/mL)2 log TCID50 /mLを超える感染を維持し、レタスが4.80×102、チキンが3.16×102、サーモンが5.54×102だった。
・次に消毒薬の有効性について、OECDガイドライン基準によると、保因者検査の標準効果は3 log以上の減少と定義されているが、本研究では検出限界のため、70%エタノールによってチキンとサーモンで3 logを超える減少は観察されなかった。
・ClO2では、SARS-CoV-2で汚染された食品に対してすべての暴露時間条件下でどの食品マトリックスに対しても標準的な効果を達成しなかった。
・PAAは、すべての食品においてSARS-CoV-2を不活化させることができたが、SARS-CoV-2汚染レタスに対し、40ppmと80ppmのPAAでそれぞれ2.04 logと2.46 logとの殺ウイルス効果を得ることができた(p<0.05)ものの、標準的な効果には達しなかった。
研究者らは「SARS-CoV-2に汚染された食品サンプルは相対湿度40%で保管されていたが、食品は時間の経過とともに徐々に乾燥していった。SARS-CoV-2の生存率は、乾燥が食品マトリックスに影響している可能性もある」と記している。
(ケアネット 土井 舞子)