大阪大学大学院医学系研究科の石井 優氏らの研究グループは、肺胞マクロファージが、細胞の増殖および分化の調節、神経細胞の生存など、さまざまな生物活性を有するサイトカイン「アクチビンA」を介して、肺がんの増殖を促進させる悪循環を形成していることを初めて明らかにした。肺胞マクロファージは、正常の肺では最も数の多い免疫細胞の1つで、肺機能の維持に重要な役割を果たしていると考えられている。一方、肺がん細胞と肺胞マクロファージとの詳細な関係については、これまでほとんど解明されていなかった。本研究結果はNature Communications誌2023年1月17日号に掲載された。
肺胞マクロファージは、肺がんの環境において何らかの影響を肺がん細胞に与えている可能性が考えられていた。しかし、肺のみに存在するため、肺がんの環境を詳細に研究できる実験系を構築することが難しいという課題があった。そこで、外科的な手法を使ってマウス生体内に肺がんを構築する「肺がんモデルマウス」を用いて研究を行った。また、肺胞マクロファージのRNA配列を読み取り、遺伝子発現を網羅的に定量する「RNAシークエンス」を行った。
主な結果は以下のとおり。
・肺がん患者の組織を調べた結果、肺がん組織では肺胞マクロファージが正常組織と比べて有意に多かった(p=0.0096)。
・肺胞マクロファージ上清を添加して肺がん細胞(Lewis lung carcinoma)を培養すると、未添加と比べて細胞数が有意に増加し(p<0.0001)、がん細胞の倍加時間が短縮した。
・肺がんモデルマウスの生体内から肺胞マクロファージを枯渇させると、肺胞マクロファージが保たれた場合よりも、肺がんの増殖が緩やかであった。
・RNAシークエンスの結果、肺胞マクロファージではインヒビンβAをコードする遺伝子Inhbaの発現が亢進し、インヒビンβAのホモダイマーであるアクチビンAの産生が増加した。アクチビンAを添加して肺がん細胞(Lewis lung carcinoma)を培養すると、未添加と比べて細胞数が有意に増加した(p<0.0001)。
・肺がん患者の組織でも、肺胞マクロファージにおいてアクチビンAが多く発現していた。
本研究結果の意義について、「肺胞マクロファージの産生するアクチビンAの阻害が、肺がんの治療候補となることが期待される。また、本研究で解明されたメカニズムは、早期がんの段階から確認されており、肺胞マクロファージとアクチビンAに着目することで、肺がんを早期に診断することにも貢献できると考えられる。さらに、アクチビンAの阻害は、早期がんから進行がんへの進展を抑制することにも有用であると考えられ、肺がんを早期の段階で手術により根治する機会を増やすことにも貢献できると期待される」と、研究グループはまとめている。
(ケアネット 佐藤 亮)