新薬追加のWeb版「GIST診療ガイドライン」、診療経験少ない非専門医にも

提供元:ケアネット

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公開日:2023/03/21

 

 日本癌治療学会は稀少腫瘍研究会の協力のもと、「GIST診療ガイドライン2022年4月改訂 第4版」を発刊し、2023年3月4日、本学会ホームページにWeb版を公開した。GIST(Gastrointestinal stromal tumor、消化管間質腫瘍)は、全消化管に発生する間葉系腫瘍で、疫学的には10万人に1~2人と消化器系の稀少がんであるため、患者の診療経験が少ない臨床医も多い。そのため、本ガイドライン(GL)に目を通し、いざという時のために備えていただきたい。そこで、今回、本GL改訂ワーキンググループ委員長の廣田 誠一氏(兵庫医科大学病院 主任教授/診療部長)に、本書の目的やおさえておく内容について話を聞いた。

 なお、昨年発売された書籍では紹介できなかったHSP90阻害薬ピミテスピブ(商品名:ジェセリ錠40mg)について、Web版ではCQ(Clinical Question)の追加や関連箇所のアップデートがなされているので本編の後半に紹介する。

診断・治療の迷いを払ってくれるアルゴリズム・参考図表

 本GLはGIST診療にかかわる非専門医、医療者、患者・家族のために作成された。そのため、診療方針をわかりやすく示し、適切な医療の実践を通して患者の予後を改善することを目的に、MindsのGL作成マニュアル2014と2017に準拠し作成された。たとえば、今回改訂されたアルゴリズムを見ると、参考にすべきCQ/BQ(Background Question)が色付きタブで示されているので、推奨の強さやエビデンスの強さをすぐに確認することができる。また、診断や治療を8つのアルゴリズムで示しているので、診療の全体像をつかみやすいのも特徴である。

<アルゴリズム> -本ガイドラインの概要より
1) 消化管粘膜下腫瘍の診断・治療の概略
2) 紡錘形細胞型GISTの鑑別病理診断
3) 類上皮細胞型GISTの鑑別病理診断
4) 切除可能な限局性消化管粘膜下腫瘍の治療方針
5) 限局性GISTの外科治療
6) 限局性GISTの術後治療
7) GISTの薬物治療(一次治療)
8) イマチニブ耐性GISTの治療

 廣田氏は、今回大きく改訂された項目として、アルゴリズム2、3、5を挙げた。病理の『アルゴリズム2:紡錘形細胞型GISTの鑑別病理診断』『アルゴリズム3:類上皮細胞型GISTの鑑別病理診断』はもともと1つのアルゴリズムであったが、KIT陰性GISTについて現場での勘違いが多いことを踏まえて2つに分け、後者には診断時に重要となるDOG1抗体の判定を追加した。同氏は「GISTには腫瘍の原因となる遺伝子異常が解明されているものが多く、どんな遺伝子型なのか(p.15参考図表1)を見極めて診断・治療できるような工夫が本書にはなされている」と説明した。さらに、「“本当の多発なのか播腫性転移なのか”も重要になるため、多発GISTの鑑別を示す参考図表2(p.15)もぜひチェックいただきたい」とコメントした。

GLは診療領域ごとに区分も、実臨床では連携強化を求む

 GISTを診断するためには、画像診断によるスクリーニングと病理診断による確定が非常に重要で、GIST治療では内科医・外科医を中心に病理医や放射線科医も連携を取って集約的な治療が必要になるが、多くの病院ではこれらの連携がネックにもなっている。「内科医が粘膜下腫瘍を疑い、放射線科医・病理医がそれをしっかり診断する。その後、外科的切除が必要かどうか、内科医と外科医の連携が患者の将来を左右するため、切除前にまずはしっかり立ち止まることが重要」と強調した。大型GISTなどの場合でとくに確認すべきは『アルゴリズム5:限局性GISTの外科治療』だと同氏は話す。これは黒川 幸典氏(大阪大学大学院医学系研究科外科系臨床医学専攻 准教授)の発表論文1)によるエビデンスなどが、外科CQ5に対する推奨文である「イマチニブによる術前補助療法を行うことを弱く推奨する(推奨の弱さ:弱い、エビデンスの強さ:弱)」に対し大きな影響を与えた、とも述べた。

GIST治療薬ピミテスピブ、Web版に追補

 2023年2月に改訂、3月に公開されたWeb版は書籍版から改良が加えられ、英語版も公開の準備がされている。Web版では、「内科CQ13:レゴラフェニブ不耐・不応の転移・再発GISTに対して、ピミテスピブは有用か―レゴラフェニブ不耐・不応の転移・再発GISTに対して、ピミテスピブの使用を強く推奨する(推奨の強さ:強い、エビデンスの強さ:中」が追加されたほか、『アルゴリズム8:イマチニブ耐性GISTの治療』や内科治療領域の総論内の転移・再発GISTの項目にピミテスピブの四次治療としての位置付けを追加。「内科CQ8:レゴラフェニブ耐性・不応の転移・再発GISTに対して、イマチニブまたはスニチニブの再投与は有用か」の解説に、イマチニブやスニチニブの再投与は推奨されるも再投与の前にピミテスピブの投与が推奨される旨、などが変更されている。

 最後に同氏は「GISTはエビデンスの少ない疾患であることから、システマティックレビューのみならず、専門家間でコンセンサスが得られている事象が加味されていること、本書が成人GIST症例に重きを置いているため、病態が異なる若年・小児例では内容を十分に確認する必要があることに注意して欲しい」とコメントした。

(ケアネット 土井 舞子)