タイプ2炎症は、主に2型ヘルパーT細胞(Th2細胞)や2型自然リンパ球(ILC2)が産生するIL-4、IL-5、IL-13などの2型サイトカインが作用する炎症である。気道・肺疾患と密接な関係にあり、診断や治療に直結する。とくに、生物学的製剤の治療選択や効果予測に重要な役割を果たすことから、近年注目を集めている。そのような背景から、「タイプ2炎症バイオマーカーの手引き」が2023年4月3日に発刊された1)。第63回日本呼吸器学会学術講演会において、本書の編集委員長を務めた松永 和人氏(山口大学大学院医学系研究科呼吸器・感染症内科学講座 教授)が「タイプ2炎症バイオマーカーが切り拓く未来」と題し、主に「喘息の診断と管理効率の向上」「疾患修飾による喘息寛解の展望」について、解説した。
タイプ2気道炎症は喘息の診断、管理に有用
喘息の補助診断には、血中好酸球数、呼気NO濃度(FeNO)、IgEが有用である。そこで「タイプ2炎症バイオマーカーの手引き」では、血中好酸球数とFeNOについて、喘息の補助診断に関するカットオフ値が設定された
1)。
血中好酸球数については、タイプ2炎症の有無を鑑別するカットオフ値が220cells/μLであったという報告
2)、一般住民における75パーセンタイル値が210cells/μLであり、210cells/μL以上では喘息を有する割合が高かったという報告
3)などがある。以上などから、喘息を疑う症状のある患者における、
喘息の補助診断のカットオフ値は220cells/μL(喘息診断を支持)に設定された
1)。詳細は、手引きを参照されたい。
FeNOについては、タイプ2炎症の有無を鑑別するカットオフ値が20ppbであったという報告
2)、本邦で喘息患者と非喘息患者を鑑別する際のカットオフ値が22ppb(感度91%、特異度84%)であったという報告
4)などがある。ただし、FeNO値22ppbを適用すると非喘息患者の約15%もこの範囲に当てはまってしまう。そこで、FeNO値37ppbを適用すると特異度は99%となる
4)。以上などから、吸入ステロイド薬(ICS)未使用の喘息を疑う症状のある患者における、
喘息の補助診断のカットオフ値は22ppb(喘息の可能性が高い)、35ppb(喘息診断の目安)に設定された
1)。詳細は、手引きを参照されたい。
なお、血中好酸球数、FeNOを補助診断に用いる場合、いずれも最終的な喘息の診断は、治療による反応性、治療効果の再現性などの臨床経過や症状・呼吸機能の変動を含め総合的に判断する。
また、FeNOと血中好酸球数は喘息管理においても有用である。そこで「タイプ2炎症バイオマーカーの手引き」では、喘息管理における解釈に関するカットオフ値も設定された
1)。
ICSによる治療前後のFeNOの変化と気流制限、気道過敏性には相関があり、治療効果予測への有用性が指摘されている
5)。ICS/長時間作用性β
2刺激薬(LABA)による治療中はFeNOが低下し、治療を中止するとFeNOが上昇することが報告されているため、FeNOによる炎症モニタリングは、アドヒアランスやステロイド抵抗性の評価にも有用とされる
6)。また、現在の治療ステップにかかわらず、増悪歴やリスク因子(症状、呼吸機能など)に加えて血中好酸球数とFeNOが高値の患者では将来の増悪リスクが高いことが近年報告されている
7)。
以上から、
喘息管理におけるFeNOのカットオフ値は20ppb、35ppbに設定され、
血中好酸球数のカットオフ値は150cells/μL、300cells/μLに設定された。症状がなく、これらに基づくタイプ2炎症が低レベルであれば、抗炎症治療は適切と考えられ、抗炎症薬の減量が考慮可能である。一方、高レベルであれば症状がなくとも、服薬アドヒアランス・吸入手技の不良や、抗炎症薬の減量で症状が悪化する可能性がある。また、現在の治療でも症状が続いており炎症が高レベルであれば、増悪や呼吸機能低下のリスクが高いため、抗炎症治療の強化が考慮される
1)。詳細は、手引きを参照されたい。
タイプ2炎症への早期介入で疾患修飾・喘息寛解の達成へ
タイプ2炎症と気道機能障害は喘息の治療可能な臨床特性(Treatable Traits)であることが、近年提唱されている
8)。とくに、タイプ2炎症型の重症喘息では、タイプ2炎症が強いほど喘息が重症化するという知見も得られている。重症喘息はICS抵抗性であることが多いことから、さまざまな生物学的製剤が開発され、使用可能となっている。
同じく複数の生物学的製剤の適応がある関節リウマチの治療戦略では、Bio-free-remission(生物学的製剤での早期介入によりdeep remission[臨床的寛解、機能的寛解、免疫学的寛解のすべて]を達成し、生物学的製剤なし、もしくは投与間隔を長くする)が目指されており、エビデンスも集積されつつある。しかし、重症喘息では生物学的製剤の中止に関する臨床研究のエビデンスが乏しいのが現状である。したがって、松永氏らの研究グループは、まず生物学的製剤による「疾患活動性の抑制」を達成し、「deep remission」を達成した患者ではBio-free-remissionを目指せる可能性を提唱している
9)。
松永氏らの研究グループは1年間の生物学的製剤の使用により、喘息の臨床的寛解が69%、deep remissionが32%で達成できたこと、deep remissionが達成された患者の特徴は、早期かつ呼吸機能が保たれている段階での生物学的製剤の使用であったことを2023年4月に報告している
10)。そのため、松永氏は「バイオマーカーを活用しながら、呼吸機能が保たれている患者に対して早期に生物学的製剤を導入し、疾患修飾をかけてほしい」と強調した。
タイプ2炎症バイオマーカーの手引きはバイオマーカーと疾患を網羅
「タイプ2炎症バイオマーカーの手引き」は、タイプ2炎症のバイオマーカーとそれに関連する疾患を網羅した1冊となっている。松永氏は「さまざまな気道・肺疾患の診断や治療方針の決定に直結するため、タイプ2炎症が注目されている。本書は、実臨床の具体的な状況において簡便に活用できる臨床指針を提供することで、タイプ2炎症評価の適正な普及につなげ、気道・肺疾患のさらなる管理効率の向上を目指して作成したため、ぜひ活用いただきたい」とまとめた。
タイプ2炎症バイオマーカーの手引き
編集:タイプ2炎症バイオマーカーの手引き作成委員会/日本呼吸器学会肺生理専門委員会
定価:3,190円(税込)
発行日:2023年4月20日
A4変型判・120頁
■参考文献
1)
タイプ2炎症バイオマーカーの手引き作成委員会/日本呼吸器学会肺生理専門委員会編集. タイプ2炎症バイオマーカーの手引き. 南江堂;2023
2)
McGrath KW, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2012;185:612-619.
3)
Hartl S, et al. Eur Respir J 2020;55:1901874.
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Matsunaga K, et al. Allergol Int. 2011;60:331-337.
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Ichinose M, et al. Eur Respir J. 2000;15:248-253.
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9)
Hamada K, et al. J Asthma Allergy. 2021;14:1463-1471.
10)
Oishi K, et al. J Clin Med. 2023;12:2900.
(ケアネット 佐藤 亮)