本邦では、2023年5月8日に新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染症法上の分類が5類に引き下げられ、文部科学省は、5類移行後の学校でのマスクの着用や検温報告を原則不要とする方針を、各教育委員会に通知している1)。しかし、スイスの中学校で実施された研究において、マスク着用の義務化はウイルス感染に重要な役割を果たすとされるエアロゾルの濃度を低下させ、新型コロナウイルス感染リスクを大幅に低減させたことが報告された。本研究結果は、スイス・ベルン大学のNicolas Banholzer氏らによってPLOS Medicine誌2023年5月18日号で報告された。
マスク着用に新型コロナウイルスの感染予防効果
研究グループは、2022年1~3月(オミクロン株の流行期)において、スイスの2つの中学校(90人、1教室あたり平均18人)を対象として、マスク着用や空気清浄機の有無による新型コロナウイルス感染リスクの変化を検討した。7週間の期間(マスク着用義務化[学校A:2週間、学校B:4週間]、非介入[それぞれ3週間、1週間]、空気清浄機使用[いずれも2週間])において、疫学データ(新型コロナウイルス感染症の症例)、環境データ(CO
2濃度、エアロゾル濃度など)、分子データ(唾液とバイオエアロゾル[ウイルスなどの生物に由来する粒子])が収集された。
マスク着用や空気清浄機の有無による新型コロナウイルス感染リスクの変化を検討した主な結果は以下のとおり。
・唾液262サンプル中21サンプルにウイルスが含まれ(19サンプルが新型コロナウイルス)、バイオエアロゾル130サンプル中10サンプルにウイルスが含まれた(9サンプルが新型コロナウイルス)。
・新型コロナウイルスが含まれた唾液サンプルの割合は、非介入時11.5%であったのに対し、マスク着用義務化時5.7%、空気清浄機使用時7.7%であった。新型コロナウイルスが含まれたバイオエアロゾルサンプルの割合は、非介入時8.1%であったのに対し、マスク着用義務化時7.1%、空気清浄機使用時5.0%であった。
・CO
2濃度(日平均値±標準偏差[SD])は1,064±232ppmであった。
・エアロゾル濃度(日平均値±SD)は非介入時177±109個/cm
3に対し、マスク着用義務化時49±52個/cm
3(調整変化率:-69%)、空気清浄機使用時84±56個/cm
3(調整変化率:-39%)であった。
・新型コロナウイルス感染リスクは、非介入時と比べてマスク着用義務化時で低かった(調整オッズ比[aOR]:0.19、95%信用区間[CrI]:0.09~0.38)。空気清浄機使用時は非介入時と同様であった(aOR:1.00、95%CrI:0.15~6.51)。
・試験期間中、マスク着用義務化により新型コロナウイルス感染が9.98件(95%CrI:2.16~19.00)回避されたと推定された。
本研究結果について、著者らは「時間の経過とともに感受性の高い学生の数が減少したことから評価期間による交絡の可能性は否定できず、空気中のウイルスの検出は曝露を意味するが、必ずしも伝播とは限らないという限界がある」としつつも、「一般的なマスクの着用により新型コロナウイルス感染が予防されたことから、感染対策によって学校の教室での呼吸器感染症の伝播を減らせることが示唆された」とまとめた。
(ケアネット 佐藤 亮)