慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者に多い併存疾患として、うつ病や不安症などの精神疾患が挙げられる。抑うつの併存率は、欧米では80%、日本人では38%という報告もある1,2)。しかし、COPD患者における抗うつ薬のリスク・ベネフィットに関するエビデンスは乏しい。そこで英国・ノッティンガム大学の研究グループは、英国のプライマリケアにおける診療記録のデータベースを用いて、COPD患者における抗うつ薬とCOPD増悪、肺炎のリスクの関係を検討した。その結果、抗うつ薬の使用はCOPD増悪や肺炎のリスクを上昇させ、抗うつ薬の使用を中止するとそのリスクは低下したことが示された。本研究結果は、Rayan A. Siraj氏らによって、Thorax誌2023年6月19日号で報告された。
英国のプライマリケアにおける診療記録のデータベース(The Health Improvement Network)を用いて、自己対照ケースシリーズ研究(Self-Controlled Case Series)を実施した。少なくとも1回以上の抗うつ薬処方を受けたCOPD患者3万1,253例が対象となった。対象患者におけるCOPD増悪と肺炎の発生率を調べた。
主な結果は以下のとおり。
・COPD患者3万1,253例のうち、COPD増悪が認められたのは1万8,483例、肺炎が発生したのは1,969例であった。
・抗うつ薬処方から90日間において、COPD増悪の発生率は16%増加した(年齢調整発生率比[aIRR]:1.16、95%信頼区間[CI]:1.13~1.20)。抗うつ薬処方91日後~抗うつ薬中止までの期間において、COPD増悪の発生率はやや増加したが(aIRR:1.38、95%CI:1.34~1.41)、抗うつ薬の中止後に減少した。
・抗うつ薬処方から90日間において、肺炎の発生率は79%増加したが(aIRR:1.79、95%CI:1.54~2.07)、抗うつ薬の中止後にこの関連は消失した。
著者らは、「抗うつ薬はCOPD患者におけるCOPD増悪、肺炎のリスク上昇と関連があり、そのリスクは抗うつ薬の中止により低下した。本結果は、抗うつ薬の副作用を注意深くモニタリングすること、精神疾患に対する非薬物療法を考慮することを支持するものであった」とまとめた。
(ケアネット 佐藤 亮)