医師の偏在を解消するために医学部で地域枠の導入が進んでいる。2021年度には入学者全体の18.7%が地域枠学生となっている。その一方で、入学試験での成績は一般枠入学者に比べ、地域枠入学者で低い傾向にあることが知られ、入学後の学習能力や臨床能力の差異について懸念が示されてきた。
これら懸念事項について福井 翔氏(杏林大学 総合医療学)、西崎 祐史氏(順天堂大学 医学教育研究室)、徳田 安春氏(群星沖縄臨床研修センター)らの研究チームは、日本全国の臨床研修医(postgraduate year[PGY]-1およびPGY-2)を対象に実施した基本的臨床能力評価試験(GM-ITE:General Medicine In-Training Examination)の結果と、研修教育環境に関するアンケート結果を用いて、地域枠卒業生のGM-ITEスコアの特徴を調査した。
約6,000人の研修医の臨床能力研究からわかったこと
本研究は2020年度のGM-ITE試験に参加した全国593施設から6,097人を対象とした横断研究。内訳は地域枠卒業生(1,119人)と一般枠卒業生(4,978人)。
結果は以下のとおり。
・ 地域枠卒業生と一般枠卒業生のGM-ITEスコアの平均値(標準偏差)は、それぞれ29.4(5.2)点、29.0(5.4)点と地域枠卒業生のほうがわずかに高かった。
・学習時間や常時受け持ち入院患者数、病院の基本情報などの研修環境因子で調整したマルチレベル分析を実施した結果、地域枠卒業生とGM-ITEスコアとの間に有意な関連は認められなかった(β係数[95%信頼区間]:0.20[-0.16~0.56];p=0.27)。
・地域枠出身者か否かと研修医の基本的臨床能力(GM-ITEスコア)については、臨床的および統計学的に有意な差がないと結論付けられる。
これらの結果を受けて、福井氏らの研究チームは、下記のように今回の結果を分析している。
本研究は、医師国家試験の合格率が地域枠卒業生では一般枠卒業生と同等、ないしはわずかに高いという過去の研究結果に加え、臨床研修医の基本的臨床能力についても一般枠出身者と同等であることを日本全国大規模データで初めて明らかにした。この結果は地域枠入学者の学習能力および、基本的臨床能力の懸念を軽減するものであり、今後の医師育成を検討する上で重要な基礎資料と成りうる。
地域枠出身者の医学部入学時の試験点数は低い傾向であるものの、卒後臨床研修における基本的臨床能力の評価指標であるGM-ITEの結果において、地域枠出身者のスコアが一般枠出身者と比較して差がなかったことについては、いくつかの要因が寄与していることが推測できる。たとえば、奨学金サポートが医学部在籍時の学習時間の確保に繋がっている可能性、地域医療現場で求められる総合的な知識やスキルを意欲的に習得している可能性、総合的な臨床能力の開発が臨床研修の到達目標およびGM-ITEの評価項目に合致している可能性などが挙げられる。また、大学入学時の地域枠選抜では、学科の試験結果のみならず、高校での評定、面接、小論文などが重視され評価されることが多いため、医師を志す上で大切なコミュニケーション能力、共感力、モチベーションなどの学力だけでは評価できない重要な資質が備わった人材が選定されている可能性がある。このような大学入学時の選抜方法の違いが医学部入学後や臨床研修における学習態度に好影響を与えている可能性も考えられる。
そして、本研究の課題として「あくまでGM-ITEスコアに基づいた臨床能力と地域枠出身者の関連を検討した研究であり、いくつかの限界点がある。たとえば、地域枠制度の詳細な内容(奨学金や診療科制限など)についてのデータは収集しておらず評価できていない点、医学部卒業時点での医学知識や臨床能力のベースラインを測定していないため、臨床能力の変化について着目した解析が実施できていない点」などを挙げている。
(ケアネット 稲川 進)