突然死が最も起こりやすいスポーツは…

心臓の病=高齢者のイメージが強いが、心臓突然死に限って言えば若年者も他人ごとではない。心臓突然死では年間約6~8万人が亡くなっており、その発生件数は年齢とともに増加する。ところが、スポーツ関連の突然死の場合は若年層に多く、18歳以下の突然死の約4割はスポーツ関連であるという。ではどんなスポーツで発生しやすいのだろうか。そしてその予防対策や心掛けておくべきことはなんだろうか-。今回、8月10日健康ハートの日を前に行われた第4回健康ハート・シンポジウムにおいて、公益財団法人日本サッカー協会(JFA)の医学委員を務める林 英守氏(順天堂大学大学院医学研究科 循環器内科学 准教授)が『サッカー×ハート ~今、私たちにできることは?~』と題し、発症リスクの高いスポーツ、試合前の体調管理方法について解説した。
突然死に関連するスポーツ種目-運動強度の高さが目安
前述にも示したとおり、18歳以下の突然死には運動が大きくかかわっている。0~18歳でも年齢が上がるほど発生率は高くなるが、「これは部活動での運動強度の変化に伴い、運動中の突然死の発生が増加するため」と林氏はコメント。とくに心臓突然死の発症が高いスポーツとしてサッカーを示した1)。これは運動強度の高さが原因にほかならず、体操や陸上、水泳など上位に連なるスポーツと発生率を比較してもその差は歴然としている。しかし、同氏は「心臓に異常がない突然死はまれ。若年者の突然死の原因疾患には先天性の肥大型心筋症や拡張型心筋症、冠動脈奇形、遺伝性不整脈疾患などが背景にある」とコメントし、実際の若年スポーツ選手の原因疾患を列挙した。有病割合が高かった疾患として「冠動脈異常(有病割合は1:100)、大動脈二尖弁(1:100)、肥大型心筋症(1:500)、wolff-Parkinson-White症候群(1:750)」2)などがある。一方で、試合前に見つけることができない心臓突然死リスク因子として心臓震盪を挙げた。これはボールや手足が胸壁に強く当たるような競技者間の接触が多いスポーツで発生しやすく、「硬式野球や空手、フットサル、ソフトボール、ホッケーなどで発生しやすい。実は心臓震盪による突然死は冠動脈異常や肥大型心筋症に続いて多い」と警鐘を鳴らした。ここで同氏は「心臓震盪は心室細動が発生して死に至るが、すぐに自動体外式除細動器(AED)を利用すれば救命率は上がる」とAEDの有用性を強調した。
AEDの普及、スポーツ関連の心臓突然死がきっかけ
AEDは今でこそ街中やマンションなどに設置され、アミューズメントパークの地図にも設置場所が記載されるまでに普及している。しかし、ここに至るには2002年に高円宮憲仁親王がスカッシュの練習中に心室細動による心不全で薨去されたことなどが問題提起され、その結果として、2004年に一般人によるAEDの使用が認められるようになったのである。それから時を経て2011年、今度はサッカーの元日本代表選手であった松田 直樹選手がチームの練習中に倒れ、帰らぬ人になった。このような衝撃的なニュースが世間を震わせ、AEDの設置のみならず、使い方講習会などの普及にもつながっていった。世界に目を向けると、2021年に海外サッカーのクリスティアン・エリクセン選手が試合中に倒れたが、AEDにより救命され、今では皮下植込み型除細動器(S-ICD)を入れて試合復帰できるまでに至っている。このように練習中のみならず試合本番中にも心臓突然死は生じる可能性があることから、「日本サッカー協会は心血管疾患を考慮したメディカルチェックのプロトコールを作成し、選手のみならず審判にも報告を課して競技スポーツへの参加可否を判断している」と同氏は説明。実際にイタリアでは競技前のメディカルチェックを導入したところ、25年間でアスリートの突然死が90%減少したことも報告3)されている。現在、国内で使用しているプロトコールでは自覚症状、経過、家族歴、身体所見など心血管疾患のメディカルチェックに必要な14項目を実施し、そのほかに血液検査・採尿検査・レントゲン・心電図(毎年)、心臓超音波検査(5年ごと)を行っている。「陽性所見があれば、スポーツドクターが確認し、追加診察や検査(心臓CTなど)が実施・判断される」と説明した。
最後に同氏は「スポーツ現場における心臓突然死をゼロに、そのためには救命の3要件[1:倒れる瞬間を目撃、2:そばに救助者、3:そばにAED]が揃えば救える可能性が高くなる」と述べ、「10代は心臓突然死もさることならが、夏場の高温多湿の環境下では、熱中症にも注意しなければならない。重篤な熱中症では意識障害を引き起こし、死に至るケースもあるため、暑さ指数(WBGT)を目安に運動強度を調整し、場合によっては中止を決定するように心掛けてほしい」と締めくくった。
このほか、AED関連の講演では、三田村 秀雄氏(公益財団法人 日本AED財団 理事長)が市民とAEDのつながりについて講演し、スマートフォンアプリ『救命サポーター team ASUKA』や中学生がAEDで先生を救った実例などを紹介した。
―――
8月10日が810(ハート)と読めることから、1985年にこの日を「健康ハートの日」とすることを日本心臓財団が提唱した。2020年に日本心臓財団は設立50周年を迎え、それを記念して健康ハート・シンポジウムがスタート。第4回を迎える今回は、新たに日本AED財団を迎え、循環器病予防啓発の新たなキックオフとして4団体合同(日本心臓財団、日本循環器協会、日本循環器学会、日本AED財団)で開催された。
(ケアネット 土井 舞子)
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