小学生向けの「がん教育」では、到達目標を“がんについて考える「きっかけづくり」”に置くことが大事だという。また「新聞作り」のようなアウトプット機会の提供も有用であるようだ。
今回は、がん教育のワークショップを例に、医療者が小学生にがん教育を行ううえでの、ヒントとなる内容を紹介する。
2023年8月5日、小学生親子向けの夏休み自由研究応援プログラム『がんと「未来」新聞づくり』ワークショップが、都内にて開催された(主催:武田薬品工業)。
【クイズ形式や新聞作成で、対話を大切に】
本プログラムでは、クイズ形式や講演内容からの新聞作り、といったいくつかの工夫が見られた。
冒頭の「医師から学ぼう!がんのこと」と題した、渡邊 清高氏(帝京大学医学部内科学講座 腫瘍内科 病院教授)の講演も小学生向けに構成された平易なスライドに加え、クイズを交えた構成が印象的であった。
「日本人の何人にひとりが一生のうち、がんになるでしょう?」
「がん検診を受けるタイミングは?」
「この中でがんの原因にならないものは?」
などのクイズに回答しながら、子供たちは「がん」の知識を自然に得られる。
講演後の取材で渡邊氏は、医療者が小学生向けにがん教育を行う際は、つい正しい知識の伝達ばかりに重きを置きがちだが、一方通行の講義ではなく、子供にがんを知ってもらう「きっかけ」を提供する意識が大事だ、と述べた。子供たちの意見を聞きながら、対話形式で取り組むことが望ましく、可能であれば医師だけでなく、患者さん側の体験を共有する機会を設けると、より身近にがんを意識させることができるという。
なお、必ずしも患者さん側からの講演である必要はなく、医師が患者さんと接した際のエピソードの紹介、といった医師の経験談の共有も有用だという。
【軍手を使った、化学療法による副作用体験】
今回は実際に、「がん体験者のお話を聞こう」という形で、桜井 なおみ氏(一般社団法人CSRプロジェクト代表理事)の体験が語られた。演台での講義スタイルではなく、会場を歩きながら子供に語りかけるように話す姿が印象的であった。
講演内では、抗がん剤服用で生じる末梢神経障害などの身体変化を体感してもらう目的で、参加者に軍手をはめてもらい、「ペットボトルを開ける」、「お箸を使って物を運ぶ」、「紙をめくる」、などの作業に挑戦してもらい、その感想を聞いた。
「紙がめくれないとイライラする」と述べる子供に、桜井氏は「もし自分のまわりの人が困っていたら、どんなサポートをしてあげたいかな?」と問いかけた。会場からは
「ゆっくりでいいよ、と声をかける」
「ドアを開けておいてあげる」
といった意見が挙がったのち、桜井氏は「がん患者はいろいろなつまずきがある。そんなときに手を差し伸べてあげてほしい」と伝え、がん患者の困り事がまとまった
参考ウェブサイト「生活の工夫カード」(国立がん研究センター 中央病院)を紹介した。
また、「がんだから仕方ない」と患者さんは思ってしまいがち、との桜井氏のコメントに対し、渡邊氏からは医療者として「何か困っていることはないですか?」とアプローチすることも大事だ、との意見も述べられた。
講演後に行われた新聞作りでは、時間を超過しても残って作業を継続する親子が多く、参加者が主体的にワークに取り組む様子が伺えた。
【“新聞作り”というアウトプットで学びを深める】
本プログラムを主催した武田薬品工業の馬目氏(日本オンコロジー事業部 ペイシェントアドボカシー&コミュニケーション部 課長代理)にも企画趣旨を取材した。
今回は、小学生にもわかりやすくがんをより身近に感じてもらう目的で、医師および患者さんの両者の視点から講演をしてもらい、子供たちに楽しみながら意見をアウトプットしてもらえる「新聞作り」という形式を考えたという。
学校がん教育の普及には、現在も都道府県での取り組みに差があることや、外部講師の成り手が少ないといった課題がある。武田薬品工業は、今年度初めて募集をかけ、がん教育プログラムを企画した。
本プログラム参加者は40人(家族16組)。事後アンケートでは「がん」に対する理解力の向上とともに「がん患者さんの気持ちを理解できて良かった、学んだことを身近な人に話したい、将来医師になりたい」という子供からのコメントや、保護者からも「親子で一緒に学び、考える時間を持つことができて良かった、患者さん目線で自分事として感じることができた」など多くの温かい感想が寄せられたようだ。
今回のような取り組みは、親子でのヘルスリテラシー向上にもつながると、期待される。
(ケアネット 佐藤 寿美)