『動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド2023年版』が6月30日に発刊された。本ガイドは2018年版から5年ぶりの改訂となり、塚本 和久氏(帝京大学大学院医学研究科長、内科学講座 教授)が改訂点や本書の新たな取り組みについて、日本動脈硬化学会主催のプレスセミナーで解説した。
動脈硬化関連の各種ガイドライン・指針に準拠
本診療ガイドは脂質異常症に特化し、非専門医が困ったときに参考となる情報をコンパクトに記載したものである。日本動脈硬化学会では『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022度版』をはじめ、『スタチン不耐に関する診療指針2018』『PCSK9阻害薬の継続使用に関する指針』などのさまざまなガイドラインや指針を発刊しており、本ガイドはそれらの内容を網羅するかたちで作成されている。そのため、主な改訂点も
動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022度版に準じたものになっている。
<主な改訂内容>
1.随時(非空腹時)のトリグリセライド(TG、中性脂肪)基準値(175mg/dL以上)を設定。
2.脂質管理目標値設定のための動脈硬化性疾患の絶対リスク評価手法として、冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞を合わせた動脈硬化性疾患をエンドポイントとした久山町研究のスコアを採用。
3.糖尿病がある場合のLDLコレステロールの管理目標値について、合併症がある場合の1次予防は100mg/dL未満、2次予防は70mg/dL未満に設定。
4.2次予防の対象疾患として冠動脈疾患に加えてアテローム血栓性脳梗塞も追加。
5.薬物療法において、スタチン不耐と判断する際の注意点を記載。
6.原発性脂質異常症の項を拡充。
上記の改訂内容1について、塚本氏は「脂質異常症の診断基準は“動脈硬化発症リスクを判断するためのスクリーニング値であり、治療開始のための基準値ではない”ことは、ぜひ理解しておいていただきたい」と述べ、改訂内容5については「スタチンは費用対効果も高く不必要な中止を避けたい。また、スタチン不耐と判断される患者の半数以上がスタチン不耐ではないとの報告
1)もある。それゆえ、ノセボ効果には注意し、患者の筋関連症状とスタチンとの関連性をしっかり確認してほしい」と強調した。
会員から寄せられた質問に答えるガイド
今回の改訂では本文の内容の充実はもちろんのこと、Q&Aを拡充し、項目数を47から61に増やしている。この中には、予防ガイドラインでは詳述されなかったポイントや比較的よく質問される疑問点、そして日本動脈硬化学会広報啓発委員会が会員ページに掲載している症例(日常臨床で診断・治療に難渋する症例)を参考に作成したケースを取り上げている。たとえば、上述の改訂内容2に関連する質問が寄せられ、それに対する回答が記載されている。
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Q25
久山町スコアでは40歳未満の方は対象にはなりませんが、多くの危険因子を持つ若年の脂質異常症患者さんにはどのように対応すればよいでしょうか?
A
久山町スコアのアプリでは、絶対リスクとともに相対リスクも表示される。久山町スコアは40歳以上を対象としたものなので正確とは言えないが、40歳未満の対象者であっても年齢以外の因子を入力後、年齢の項を40歳と入力すれば、同世代の危険因子のない方と比べての相対リスクがわかるので、患者指導に用いると良い。
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このほかにもよく質問される疑問点として「Q21 吹田スコアで高リスクだった患者さんが久山町スコアでは中リスクとなりました。どのように対応すればよいでしょうか?」「Q22 管理目標値設定のフローチャートに記載されている『その他の脳梗塞』はどのような脳梗塞でしょうか? 心原性脳梗塞やラクナ梗塞も含まれるのでしょうか?」などが寄せられている。また、広報啓発委員会作成の会員マイページに掲載されている症例を参考とした症例としては「Q55 LDL-C 260mg/dLでアキレス腱肥厚もあったので、FHと考えスタチンで治療を始めましたが、LDL-C値はほとんど下がりません。どのように対応すればよいでしょうか?」(シトステロール血症の鑑別が必要)のようなQ&Aが作成されている。ぜひQ&Aをご一読いただきたい。
遺伝子検査項目の増加、指定難病の診断に
2022年4月に原発性脂質異常症の遺伝子検査項目が5つに増えた(家族性高コレステロール血症、原発性高カイロミクロン血症、無βリポタンパク血症、家族性低βリポタンパク血症1[ホモ接合体]、タンジール病)。これを受けて、低HDLコレステロール低値の際のフローチャートを追加し、解説疾患を増やすなど、原発性脂質異常症の項を拡充。遺伝子検査項目が増えるメリットには「指定難病の確定診断がつけば、患者の登録が進み、患者のbenefitにつながる」と述べた。
ガイドラインにICT導入
今回の発刊に際し情報通信技術(ICT)を積極的に導入しており、本ガイドを購入した方はデジタルブックでも閲覧できる。また、掲載されているQRコードを読み込むことで代表的な臨床比較試験、診療指針、専門医リストなどが確認できるため、web検索する手間が省ける仕組みになっている。
最後に同氏は「以上の改訂点を踏まえ、医師や管理栄養士、臨床検査技師などをはじめとする多くの医療者に活用していただきたい」とコメントした。
(ケアネット 土井 舞子)