マサチューセッツ総合病院緩和老年医療科の樋口 雅也氏がナビゲーターとなり、医師、薬剤師、看護師などさまざまな職種と意見交換をしながら臨床に直結する高齢者診療の知識を学べる「Dr.樋口の老年医学オンラインサロン」。がんと老年医学をテーマにした回では、ゲストとしてダートマス大学腫瘍内科の白井 敬祐氏が参加し、米国における高齢者のがん診療の実際について紹介した。
高齢のがん患者とのコミュニケーションにおける工夫は?
白井氏:免疫療法などの進化によって、以前であれば予後が厳しかったがん種や進行がんでも、治療効果が見込めるケースが増えてきました。しかし、臨床試験の結果と目の前の患者さんにその薬が効くのかはまったく別問題。患者さんの期待値が上がっていることもあり、そのあたりの説明やコミュニケーションには気を遣っています。とくに高齢の患者さんには、5年生存率の平均値や中央値といった数字をそのまま伝えるだけでなく、自分が診療しているほかの患者さんの例を出して説明するなど、治療やその後の生活を具体的にイメージしやすいように工夫しています。
実際の診療で気を付けていることは?
白井氏:米国では「Shared Decision Making(SDM)」という考え方が浸透しており、医師は数多くの患者を診てきた専門家として情報提供やアドバイスをしつつ、患者や家族と一緒に意思決定することを目指しています。使う言葉も「Up to you.(あなたが決めてください)」ではなく「Up to us.(一緒に決めましょう)」といった、共同意思決定を促すものを意識して選ぶようにしています。
もう1つの工夫は、「がん以外の生活に目を向ける質問」を挟むことです。外来でフォローしている患者さんに対して「痛みや吐き気はどうですか?」といった診療に必要な質問のほかに、「前回の診察から、何か良いことはありましたか?」といったポジティブな気持ちになる質問をすることで、前向きに治療に臨めるような雰囲気づくりを心掛けています。がんになっても、できるだけ希望に沿った生活を続けられるよう、サポートすることが重要だと考えています。
印象に残っている患者さんや事例は?
白井氏:91歳でStageIVの肺がん患者の診療に4年近く当たっているのですが、彼は日本人の私に興味を持ってくれ、メジャーリーグの大谷選手が一面に載った新聞を持ってくるなど、診察のたびにいろいろな方法や話題でコミュニケーションをとってくれます。この方から「病気ではなく、その人個人への興味を持つ」ことの大切さを学びました。ほかにも患者さんから教わることは多いです。“Death ends life, but never ends relationship.”(死によって人生が終わっても、関係性はなくならない)という言葉が好きで、毎日それを実感しながら、診療に当たっています。
8月に配信された対談の後編では、米国のがん診療における多職種連携の実際、日本でも使えるチーム医療のコツを紹介している。
■詳細は以下の番組(有料・申し込み要)
CareNeTVスクール「Dr.樋口の老年医学オンラインサロン(シーズン2)
(ケアネット 杉崎 真名)