妊婦にとって禁忌とされる新型コロナウイルス感染症の治療薬が処方・調剤され、その後に患者が妊娠していることが判明した事例が多数報告されていることから、11月14日付で、日本感染症学会、日本化学療法学会、日本産科婦人科学会、日本医師会、日本薬剤師会の5団体は、診療に携わる医療関係者および治療を受ける女性患者のそれぞれに向けて合同声明文を発表した。
現在承認されている経口コロナ治療薬は、モルヌピラビル(商品名:ラゲブリオ)、エンシトレルビル(商品名:ゾコーバ)、ニルマトレビル・リトナビル(商品名:パキロビッドパック)である。そのうち、モルヌピラビルとエンシトレルビルは、動物実験で催奇形性や胚・胎児致死などが認められているため、妊婦または妊娠している可能性のある女性への投与が禁忌となっている。
合同声明文によると、医師の問診や処方前のチェックリストにてこれらのコロナ治療薬が処方に問題ないと判断され、薬局薬剤師の聞き取りでも確認したにもかかわらず、コロナ治療薬の処方・調剤後に、患者が妊娠していることが判明した事例が多数報告されている。実際に服用した患者は大変に大きな不安を抱えて妊娠と向き合うことになっているという。
声明文では、コロナ治療薬を処方する医師並びに調剤する薬剤師に対して、患者が妊娠可能年齢の女性である場合、本人への問診の結果、妊娠の可能性がないと申告されても完全には排除できるものではないということに留意することを訴えた。そのうえで、患者に丁寧な説明を行うとともに、妊婦にとって禁忌とされている薬剤を妊娠可能な世代の女性の患者に処方・調剤するかどうかについて、くれぐれも慎重に判断するよう呼びかけた。
また、この合同声明文を受けて厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策本部が同日に発表した事務連絡では、以下の周知も呼びかけている。
・製造販売業者が周知している薬服用時の事前のチェックリスト及び処方された女性患者と家族向けの資材を活用すること。
・資材が活用され、かつ患者から服薬の同意が得られている事例においても、処方時点では患者が妊娠の可能性に気付いておらず、服薬後に妊娠が判明する事例が複数報告されていることから、妊娠している可能性(前回月経後に性交渉を行った場合は妊娠している可能性があること等)について、入念に説明、確認を行うこと。
(ケアネット 古賀 公子)