痩身目的での糖尿病治療薬(GLP-1受容体作動薬)の不適切処方が問題視され、厚生労働省などから適正使用への注意喚起がなされている。さらに最近では、痩身をうたうオンライン診療でトラブルが急増し、国民生活センターが警鐘を鳴らしている1)。
同センターへ寄せられた年度別相談件数では、2021年度は49件、2022年度は205件、2023年度は10月31日までで169件と多く、21年から22年では約4.2倍も急増していた。
痩身目的などのオンライン診療に関する相談では、処方薬、副作用の説明や基礎疾患の問診が十分でないまま、初診時に数ヵ月分が処方されるなど、不適切なケースがあると同センターは報告している。こうした不適切処方では、副作用などのフォローが十分ではないために、処方を受け、不調を訴えて一般の医療機関へ来院する患者も散見され、センターでは消費者に注意を喚起している。
キャンセルできない、処方薬で副作用などの事例
同センターに寄せられた相談事例としては、「オンライン診療後のダイエット用の薬が糖尿病治療薬だった」「基礎疾患の問診も不十分なまま糖尿病治療薬を勧められた」「他剤との相互作用、副作用の説明がなく、キャンセルもできない」などの事例があった。また、「既往があるが問診がなされず、処方薬を1ヵ月服用したところ、頭痛・吐き気・めまいなどの副作用が現れたため、解約を申し出たが拒否された」などの実害が生じている事例も報告されている。
相談事例からみる特徴や問題点
【処方薬、副作用の説明や基礎疾患の問診が不十分】
自由診療では、医師は施術に伴う副作用や合併症のほか、施術費用および解約条件、効果の個人差などを丁寧に説明することが求められているが、多くの事例でこれらの説明が不十分。
「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(厚生労働省作成)
2)では、初診の場合には、基礎疾患などの情報が把握できていない患者に対する8日分以上の処方を行わないこととされているが、初診で基礎疾患などの確認が不十分なまま数ヵ月分の処方がなされているケースがある。さらに、2型糖尿病治療薬(GLP-1受容体作動薬およびGIP/GLP-1受容体作動薬)を痩身目的で処方(不適正使用)しているケースがあり、同指針が遵守されているとは考えにくい。
【特定商取引法に基づく取消しや解約が難しいケースがある】
痩身目的の治療で契約期間が数ヵ月間の継続コース(処方薬の定期購入)を勧められ、数十万円の契約をしているケースが多くある。オンライン診療の結果、医師の判断で薬の処方の当否や薬の種類、数量を決めて処方している場合、契約申し込みのケースによっては「特定申込み」に該当せず、定期購入と同様の仕組みであっても、特定商取引法に基づく取消しができない場合がある。
【運営事業者と医師の責任の所在がわかりにくい】
運営事業者と医師の責任の所在がわかりにくいケースがあるため、診察や処方薬などにかかる説明は誰が行うのか、誰が処方薬の販売者なのか、トラブルが生じた際、誰がどういった責任を負い、どこに問い合わせればいいのかなどについて、消費者にとってわかりにくくなっている。
消費者への4つのアドバイス
【痩身目的などのオンライン診療を受診するときは、処方薬も含め医師からしっかり説明を受ける】
「オンライン診療の適切な実施に関する指針」では、医学的な必要性に基づかない体重減少目的に使用されうる糖尿病治療薬の処方など、不適正使用が疑われるような場合に処方することは不適切とされている。痩身目的などのオンライン診療を受診するときは、治療内容や処方薬、副作用などのリスク、万が一のときの対応などに関し、医師からしっかり説明を受ける。持病があり、通院や服薬をしている人は、主治医に相談するなど、とくに慎重に検討することが大切。
【糖尿病治療薬は痩身目的の使用に関し、安全性と有効性は確認されていない】
糖尿病治療薬(GLP-1受容体作動薬およびGIP/GLP-1受容体作動薬)が痩身目的で使われていることがあるが、これらの薬は2型糖尿病の治療を目的として承認されている。これらの薬に関する美容・痩身・ダイエットなどを目的とする不適正使用については、安全性と有効性は確認されていない。
【解約条件などを申し込み前によく確認】
痩身目的などのオンライン診療の受診後に処方薬を購入する場合、定期購入になっているケースが多くある。解約できる場合でも条件が付されていることが多く、申し込み前によく確認する必要がある。解約の申し入れ先や副作用が出た場合の連絡先などについてもよく確認する。
【トラブルにあった場合は、消費生活センターなどに相談】
契約に不安を感じたり、解約時にトラブルになったりした場合には、1人で悩まず最寄りの消費生活センターや消費者ホットラインの188(いやや!)へ相談。もし、副作用などの症状が出た場合、速やかに最寄りの医療機関を直接受診。
(ケアネット 稲川 進)