急性・慢性心不全診療―JCS/JHFSガイドラインフォーカスアップデート版が2020年に発表され、国内における心不全(HF)治療も変化を遂げている。とくにアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)発売の影響は大きいが、そのサクビトリル・バルサルタン(商品名:エンレスト)の治療を受ける国内患者の特徴、忍容性、臨床転帰は明らかにされていない。そこで、金岡 幸嗣朗氏(国立循環器病研究センター)らが全国多施設観察研究の分析を行い、その結果を第88回日本循環器学会年次学術集会 Late Breaking Cohort Studies1にて報告した。
同氏らはHF管理のためにサクビトリル・バルサルタンの新規処方患者の特徴と臨床転帰を評価するため、国内のリアルワールドエビデンス研究であるREVIEW-HF試験よりサクビトリル・バルサルタンに関連する有害事象(AE)を分析した。処方90日以内に発生したAEとして、血圧低下、腎機能低下、高カリウム血症、血管浮腫の発生について解析し、AEと転帰との関連についても調査した。
主な結果は以下のとおり。
・993例を解析、男性は702例(70.2%)、平均年齢は69.6歳だった。
・HFrEFは549例(55.3%)、HFmrEFは218例(22.0%)、HFpEFは226例(22.7%)だった。
・サクビトリル・バルサルタンの開始用量は、82.6%が100mg/日であった。
・HFrEF患者の27.3%はベースライン時点で収縮期血圧(SBP)<100mmHgだった。
・サクビトリル・バルサルタンに関連する90日以内のAEは、22.5%で観察された。
・400mg/日まで増量できたのは、HFrEF群で38.9%、HFmrEF群で42.1%、HFpEF群で39.1%であった。中止理由としては血圧低下が最も多かった。
・調整後、ベースラインのNYHA心機能分類IIIまたはIV、SBP<100mmHg、eGFR<30mL/min/1.73m2は、AEの発生とARNIの中止の両方と統計学的に有意に関連しており、AEがみられた患者では、AEがなかった患者よりも心血管死または心不全による入院のリスクが高かった。
同氏は「国内では高齢者、LVEF機能分類を問わず、そしてSBP<100mmHgや腎機能が低下している患者にもサクビトリル・バルサルタンが処方されているのが現状である。今回の研究より、治療開始直後に比較的高い割合でAEを認め、低血圧、腎不全などのリスクを有する患者への処方の際は、とくに有害事象の発生に配慮する必要がある」とコメントした。
(ケアネット 土井 舞子)