2018年の第3版発行から6年ぶりに、第4版となる「リンパ浮腫診療ガイドライン 2024年版」が3月に改訂された。CQが2つ新設されるなど、新たなエビデンスを踏まえてアップデートされた今版のポイントについて、日本リンパ浮腫学会ガイドライン委員会委員長の北村 薫氏(アムクリニック)に話を聞いた。
脱毛・脂肪吸引などの美容施術、鍼灸治療についてCQを新設
今回の改訂では、「実臨床でよくある質問」という観点から、2つのCQが新設された。1つ目はCQ4の「続発性リンパ浮腫発症リスクのある部位に行う美容的処置(レーザー、脱毛、美容目的の脂肪吸引など)は有害(あるいは禁忌)か?」で、禁忌とする科学的根拠はないとしたが、熱傷や皮膚トラブルに注意する必要があるため、皮膚に侵襲を来しうる美容目的の処置は、有害事象の発生リスクが高いとしている(Limited-suggestive;可能性あり)。
2つ目は、CQ23の「鍼灸治療を行った場合、行わなかった場合と比べてリンパ浮腫は軽減するか?」。関係する論文5編の検討から、リンパ浮腫に対する鍼灸治療の効果について、一貫した根拠がないだけでなく、血腫などの合併症を伴うことがあるため、患肢への鍼灸治療は勧められないとされた(グレードD:実践しないよう推奨する)。
弾性着衣や間欠的空気圧迫療法(IPC)、手術療法について一部推奨グレードを変更
そのほか、治療法についていくつか推奨グレードの変更がある。まず標準治療としての弾性着衣については、上肢における有用性を示すエビデンスがさらに充実したことから、B(実践するよう推奨する)からA(積極的に推奨する)に変更された(CQ12)。
複数のエアセルの圧差によってリンパの流れを誘導する間欠的空気圧迫療法については、ここ数年で有効なリンパルートを選択的にドレナージする新型IPCが開発された。単独で奏効したという速報結果が出たため、圧迫や用手的リンパドレナージとの併用に関して上下肢ともにC2(推奨できない)からC1(行うことを考慮してもよい)に上がっており、医療機器として今年度内に承認予定である。これについて北村氏は、「一気呵成に使用するには時期尚早で、市販後調査による臨床結果によっては再度グレードが変更される可能性も踏まえて、今後の臨床研究を注視したい」と話した(CQ15)。
手術療法の中ではリンパ管静脈吻合術(LVA)が、依然エビデンスレベルが高い報告は少ないながら、有効性を示す報告の蓄積によりC2からC1に上がっている(CQ17)。しかしながら適応についてはいまだ確立しておらず、現場での考え方として北村氏は、「複合的治療に難渋する症例、蜂窩織炎を繰り返す症例などで検討するのが妥当ではないか」とした。
リンパ浮腫は治療に伴う後遺症、管理のために気を付けたいこと
北村氏がリンパ浮腫の問題に取り組み始めた当初は「俺の手術では腫れない」と公言する外科医も多かったという。「合併症ではなく後遺症なので、一定の割合で発生するものと認識して管理をしてほしい」と話す。そのためには、上肢や下肢の決まった場所の周径を治療前に計測しておくことが重要。術後も定期的に記録していくと、自分で小さな変化に気づくことができる。とくに婦人科領域では両側下肢に発症することも少なくないので左右差を論じる意味がなく、両側を計測しておく必要がある。
リンパ浮腫指導管理と圧迫療法が2008年に保険収載されて以来、現在では何らかの指導や治療を行う施設が増えたものの、その内容は必ずしも一貫していない。北村氏は、「とくに患者や家族が自分で行うシンプルリンパドレナージ(SLD)の扱いについては注意してほしい」と指摘。診療ガイドラインで予防・治療ともに「SLDは上肢・下肢ともに有効性を示す科学的根拠がないか乏しいため勧められない(C2、下肢予防では推奨度評価なし)とされているにも関わらず、実臨床では少なからず取り入れられているのが現状という。「何かできることはないかと聞かれたときに答えやすいという側面があると思うが、本気で実施すれば患者の負担は大きく、にも関わらず有効性を示すエビデンスはない」として、「あくまで治療の基本は圧迫療法であり、予防指導では体重管理や運動指導などエビデンスのある項目を優先することが大切」と話した。
(ケアネット 遊佐 なつみ)