メトホルミンは低リスク限局性前立腺がんの進行を抑制するか?(MAST)/ASCO2024

提供元:ケアネット

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公開日:2024/06/07

 

 前臨床データおよび疫学データにおいて、メトホルミンが前立腺がんの進行を遅らせる可能性が示唆されてきた。しかし、積極的監視療法適応の低リスク限局性前立腺がん患者において、メトホルミンは前立腺がんの進行を抑制しないことが示された。カナダ・Princess Margaret Cancer CentreのNeil E. Fleshner氏が、第III相無作為化二重盲検プラセボ対照MAST試験の結果を、米国臨床腫瘍学会年次総会(2024 ASCO Annual Meeting)で報告した。

・対象:12ヵ月以内に新たに診断された低リスク限局性前立腺がん患者(Gleasonスコア≦6、生検陽性コア数≦1/3、陽性コアにおけるがん占拠率<50%、臨床病期T1c~T2a、PSA≦10ng/mL、HbA1c≦6.5%)
・試験群(メトホルミン群):積極的監視療法+メトホルミン(850mg1日1回で1ヵ月間投与後850mg1日2回で35ヵ月間投与) 204例
・対照群(プラセボ群):積極的監視療法+プラセボ 203例
・評価項目:
[主要評価項目]無増悪期間(治療を要する進行[前立腺摘除術、放射線治療、ホルモン療法、focal therapyのいずれかの開始]または病理学的進行[生検陽性コア数>1/3、陽性コアにおけるがん占拠率≧50%、Gleasonスコア≧4]のうち最も早い発生までの期間と定義)

 主な結果は以下のとおり。

・ベースラインにおける患者特性は両群でバランスがとれており、年齢中央値はメトホルミン群62歳vs.プラセボ群63歳、臨床病期はT1cが93.6% vs.93.9%、BMI中央値は27.4kg/m2 vs.27.7kg/m2、PSA中央値は5.6ng/mL vs.6.0ng/mL、陽性コア数はともに1、腫瘍量中央値は43mm2 vs.44mm2であった。
・無増悪生存期間(PFS)は、両群で有意な差はみられなかった(未調整ハザード比[HR]:1.08[95%信頼区間[CI]:0.78~1.50]、p=0.64)。治療を要する進行(同:1.75[0.99~3.08]、p=0.05)、病理学的進行(同:1.07[0.76~1.52]、p=0.69)のいずれにおいても、メトホルミン投与のベネフィットは確認できなかった。
・病理学的進行例のエンドポイントについてみると、生検陽性コア数>1/3、陽性コアにおけるがん占拠率≧50%、Gleasonスコア≧7については両群で差がみられなかったが、Gleasonスコア≧8は12.9% vs.4.5%(log-rank検定のp値=0.082)とメトホルミン群で多い傾向がみられた。
・BMIとメトホルミンの交互作用の調整p値は0.032、未調整p値は0.012となり、PFS(病理学的進行)の未調整HRは、BMI<30の患者では0.82(95%CI:0.54~1.23、p=0.34)と差はみられなかったのに対し、BMI≧30の患者では2.39(同:1.20~4.75、p=0.01)とメトホルミン群で不良であった。
・多変量解析の結果、病理学的進行の予測因子はベースラインPSA値(HR:1.08、p=0.004)、生検陽性コア数(同:1.46、p<0.001)、前立腺体積の対数値(同:0.68、p=0.004)であった。
・試験期間中のPSA動態について、両群で差はみられなかった。
・メトホルミン群で下痢や悪心、腹部膨満感などの消化器系毒性が多くみられたほか、体重減少に関しては、12ヵ月時点でメトホルミン群-1.8kg vs.プラセボ群0.6kg、24ヵ月時点で-1.4kg vs.0.7kgであった。

 Fleshner氏は、探索的サブグループ解析の結果はBMI高値およびGleasonスコア≧8に進行した患者においてはむしろメトホルミンが有害な可能性を示唆しているとし、前立腺がんのアウトカムへのメトホルミンの影響を理解するためにはさらなる研究が必要と結んだ。

(ケアネット 遊佐 なつみ)

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