新たながん治療の登場は新たな有害事象(AE)との遭遇とも言える。認定NPO法人西日本がん研究機構(WJOG)では、継続的に全医療者を対象とした学習機会を設けている。7月には2024年5月に承認されたゾルベツキシマブを速やかに臨床現場に導入するためのグループワークを実施する。WJOG教育広報委員会副委員長で恵佑会札幌病院腫瘍内科の川上 賢太郎氏に聞いた。
新薬の登場は未経験の有害事象との出合い
川上氏は、「分子標的薬の登場で、消化器がん領域では従来の殺細胞性抗がん剤では経験のないAEを経験した」と言う。
2010年大腸がんのKRAS検査が保険適用となり抗EGFR抗体が臨床で使われるようになる。その際、皮膚障害などの新たなAEに遭遇する。皮膚の乾燥、発疹、爪囲炎など消化器科医にとっては「まったく経験したことのない有害事象」だったと振り返る。
近年、消化器がん領域に免疫チェックポイント薬(ICI)が保険適用となる。ICIもまた、消化器科医にとって未知のAEをもたらした。「ICIはメラノーマや肺がんが先行していたので、皮膚科医や肺がん治療医などから使用経験を共有してもらい対応していた」。しかし、「実際に他人ごとから自分ごとになったときに『さあ、どうしよう?』となる。結局自分たちで経験してみないとわからないことも多々ある」と川上氏。
医療者全体で対応する
有害事象の対応は医師だけではカバーできない。事前にわかっていれば化学療法委員会やレジメン審査委員会などで看護師、薬剤師など多職種からなるチームで対応策を練る。導入後から対処する場合は、知識や対応経験のあるスタッフによる院内講習会、対応マニュアルなどを作成するが、これは医師だけでは難しい。
また、外来あるいは入院後、患者が帰宅してから起こる有害事象への対応も看護師、薬剤師の協力が必要だ。
川上氏によれば「単純なカルテ記載では拾いきれない事象を拾い上げる」ことが重要である。そのためにも医療者全体で知識を持合い共有する場は欠かせない。
消化器がん領域、話題の新薬ゾルベツキシマブでの勉強会を実施
そのような中、WJOGは職種横断的な若手医療者向けセミナーを企画している。2024年7月に取り上げるのが、新規治療薬として注目される抗CLDN18.2抗体ゾルベツキシマブだ。
2024年5月に承認されたゾルベツキシマブは、CLDN18.2陽性切除不能胃がんに対し化学療法併用で有効性を示す。CLDN18.2は多くのがん細胞表面で発現し、幅広いがんターゲットとしても期待される一方、正常の胃粘膜にも発現する。
その影響か、ゾルベツキシマブでは悪心・嘔吐の発現が多い。実際、Pivotal試験であるSPOTLIGHT試験、GLOW試験の2つの第III相試験におけるゾルベツキシマブの悪心・嘔吐発現(全Grade)はそれぞれ89.2%、81.9%と高い。ゾルベツキシマブの悪心・嘔吐の発現は早く、薬剤投与中に起こることもあるという。日本癌治療学会も「ゾルベツキシマブ併用一次化学療法における制吐療法」としてガイドライン速報を出している。
「制吐療法の発達・普及により近年は殺細胞性抗がん剤の悪心・嘔吐はコントロールできているが、ゾルベツキシマブについては従来の方法ではコントロールできない可能性もある」と川上氏は言う。
同セミナーでは対面式のグループワークも含め、「新規治療導入時に解決すべき課題」「多職種で出来る工夫」などを議論する。
WJOG2024年多職種の若手で考えるプロジェクト 第2回若手医療従事者向けセミナー
多職種で学ぶ!胃がん診療-新規治療導入時のポイント:ゾルベツキシマブ導入について考えよう
日時:2024年7月27日(土)
場所:東京、品川TKPカンファレンスセンター
WJOGイベント参加募集ページ
(ケアネット 細田 雅之)