乳がん領域におけるがん遺伝子パネル検査後の治療到達割合(C-CATデータ)/日本乳癌学会

提供元:ケアネット

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公開日:2024/07/22

 

 2019年のがん遺伝子パネル検査の保険適用から5年が経過したが、治療到達割合の低さ、二次的所見の提供のあり方、人材育成や体制整備、高額な検査費用などの課題が指摘されている。京都府立医科大学の森田 翠氏らは、とくに臨床医として現場で感じる課題として「治療到達割合の低さ」に着目。がんゲノム情報管理センター(C-CAT)に登録されたデータを用いて日本人乳がん患者における遺伝子変異の頻度、エビデンスレベルの高い実施可能な治療への到達割合などを解析し、結果を第32回日本乳癌学会学術総会で発表した。

 本研究では、2019年6月~2023年12月のC-CATデータ“Breast”3,900例から葉状腫瘍、血管肉腫などを除いた“Breast Cancer”3,776例を対象とした。臨床医が求める薬剤到達割合の基準を、
・既存のコンパニオン診断では治療に結び付いていないこと
・がん遺伝子パネル検査で初めて治療に結び付くもの
・日本のPMDA承認薬であること
と定義し、さらに基準1(乳がんを対象とした第III相試験が施行されているという従来の基準)と基準2(臓器横断的承認で、第I/II相試験も可とする新しい基準)を設定した。

 主な結果は以下のとおり。

・患者背景は、年齢中央値56歳、40~50代が54.8%を占め、すでにコンパニオン診断によりgBRCA1陽性と診断されていた症例が2.5%、gBRCA2陽性が4.3%であった。パネル検査はFoundationOne CDxが72.3%、FoundationOne Liquid CDxが16.7%、OncoGuide NCCオンコパネルシステムが10.6%で使用されていた。
・検出された遺伝子変異はTP53が58.1%と最も多く、PIK3CAが36.0%、MYCが18.7%、CCNDIが15.0%、GATA3が13.8%と続いた。
・検出頻度上位100の遺伝子変異について2024年の最新状況に基づき薬剤到達割合をシミュレーションした結果、PIK3CAの変異(検出頻度:36.0%)は基準1、2ともに19.0%(推奨される薬剤:カピバセルチブ+フルベストラント)、ERBB2の増幅(13.7%)はHER2陰性乳がんにおいて基準1、2ともに3.4%(抗HER2薬)、PTENの変異と欠失(13.4%)は基準1、2ともに5.0%(カピバセルチブ+フルベストラント)、AKT1の変異(7.9%)は基準1、2ともに3.4%(カピバセルチブ+フルベストラント)、NTRK1の遺伝子融合(2.6%)は基準2のみで0.05%(エヌトレクチニブ、ラロトレクチニブ)、BRAFV600E(1.4%)は基準2のみで0.21%(ダブラフェニブ+トラメチニブ、ダブラフェニブ、トラメチニブ)であった。
・全体として、基準1を満たしたのは28.4%で、うち3.4%はHER2陰性乳がんにおけるERBB2増幅に対する抗HER2薬の適応、25.0%はAKT経路(PIK3CA/AKT1/PTEN)の遺伝子異常に対するカピバセルチブの適応であった。基準2を満たしたのは37.9%で、基準1からの増加分のうち9.2%はTMB-H、MSI-Hに対するペムブロリズマブの適応、0.3%はBRAF V600E、NTRK fusionsに対する各薬剤の適応であった。
・PMDA非承認薬については、企業あるいは医師主導の治験に結び付いた症例は、C-CATデータから検出しうる範囲内で、全体で25例(0.7%)であった。
・AKT経路の遺伝子変異を有する症例は全体で944例(25%)、ER陽性HER2陰性乳がんでは最大で50.9%を占めた。3遺伝子の包含関係については、重複する症例もあるが、PIK3CAが719例、AKT1が129例、PTENが190例であった。

 森田氏は、HER2陰性乳がんにおけるERBB2増幅について、術前化学療法後にHER2が陽転化した割合が同じく3.4%であった過去の報告1)に触れ、偽陰性であった可能性を指摘。またAKT経路の遺伝子異常に対するカピバセルチブの適応については、FoundationOneをCDxで使用する際に現状では臨床現場で課題があること、働き方改革の観点からは、CGP検査の前倒しよりも3因子に限った小パネル検査を開発することを提案。TMB-H、MSI-Hに対するペムブロリズマブ、BRAF V600E、NTRK fusionsに対する各薬剤の適応については臓器横断的承認であり、承認の根拠となった臨床試験に乳がん症例が含まれておらず、臨床医が自信を持ってこれらの薬剤を使えるかというと疑問が残ると考察した。したがって、現状ではCGP検査による薬剤到達割合は、臨床医の実感どおり非常に低いことが本研究により示された。乳がん診療におけるがんゲノム医療の現状は、現場の負担と患者の期待が大きいことに比して薬剤への到達割合に課題が山積しているとし、今後は臨床医を対象に定期的に広くアンケート調査を実施することなどで、現場の状況を反映していくことも必要ではないかとして講演を締めくくった。

(ケアネット 遊佐 なつみ)

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