最重症群「IV度」を追加、熱中症診療ガイドライン2024公開

提供元:ケアネット

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公開日:2024/08/01

 

 7月25日、日本救急医学会の熱中症および低体温症に関する委員会が『熱中症診療ガイドライン2024』を公表した。本ガイドラインの改訂は10年ぶり。本ガイドラインでは熱中症の診療と予防の全般をカバーし、定義・重症度・診断、予防・リスク、冷却法、冷却法以外の治療(補液、DIC治療薬)、小児関連の5分野より24個のClinical Question(CQ)が設定されている。

重症度分類がIII度からIV度へ

 これまで2015年版でIII度としてきた重症群の中にさらに注意を要する最重症群が含まれていたが、改訂版である2024年版ではこの最重症群を「IV度」と同定し、Active Coolingを含めた集学的治療を早急に開始するよう提唱している。これにより、IV度は膀胱温や直腸温などの深部体温を用いて「深部体温40.0℃以上かつGCS≦8」と定義し、Bouchama基準の重症が2024年版のIV度に該当することになる。本ガイドラインでのIII度は「IV度に該当しないIII度(2015)」となった。

 さらに、IV度の可能性がある患者を現場や搬送中、あるいは来院直後に把握する基準としてqIV度(quick IV度)「表面体温40.0℃以上(もしくは皮膚に明らかな熱感あり)かつGCS≦8(もしくはJCS≧100)**【深部体温の測定不要】」を設け、併せて提唱している。もし、表面体温にてqIV度と考えた場合は、深部体温測定を行い、速やかに重症度を判断する。深部体温が40.0℃以上でIV度と判断された場合には、早急にActive Coolingを含めた集学的治療を実施する。
*Glasgow Coma Scale  **Japan Coma Scale

用語統一にも注意

 Active Coolingについては、何らかの方法で熱中症患者の身体を冷却することと定義し、熱中症診療ガイドライン2015にて「体温管理」「体内冷却」「体外冷却」「血管内冷却」「従来の冷却法(氷嚢、蒸散冷却、水式ブランケット)」「ゲルパッド法」「ラップ法」などと記載していた方法をActive Coolingとして包括的な記載に統一されている。ただし、2015版で記載されていた「冷所での安静」はPassive Cooling(冷蔵庫に保管していた輸液製剤を投与することや、クーラーや日陰の涼しい部屋で休憩すること)とし、これに該当するものはActive Coolingに含まない(CQ3-01、CQ3-02、BQ4-01、CQ4-02、FRQ4-03、CQ5-02)。また、Active Coolingと“集中治療、呼吸管理、循環管理、DIC治療”はActive Coolingを含めた集学的治療と表現される。なお、冷蔵庫に保管していた輸液製剤を投与することは、薬剤メーカーが推奨する投与方法ではなく、重症熱中症患者への有効性を示すエビデンスはないと示している(p.5)。

新たな診断基準と治療方法

 熱中症の診断基準は「暑熱環境に居る、あるいは居た後」の症状として、以下のように分類され、推奨される治療方法が記載されている(p.7、実際はアルゴリズムとして明記)。

I度 めまい、失神(立ちくらみ)、生あくび、大量の発汗、筋肉痛、筋肉の硬直(こむら返り)があるも意識障害を認めないもの。通常は現場で対応可能と判断する。Passive Coolingを行い、不十分であればActive Cooling、経口的に水分と電解質の補給を行う。

II度 頭痛、嘔吐、倦怠感、虚脱感、集中力や判断力の低下(JCS1)を認める。医療機関での診察を必要とし、Passive Cooling、不十分ならActive Cooling、十分な水分と電解質の補給(経口摂取が困難なときは点滴)を行う。

III度 (1)中枢神経症状(意識障害JCS2、小脳症状、痙攣発作)、(2)肝・腎機能障害(入院経過観察、入院加療が必要な程度の肝または腎障害)、(3)血液凝固異常(急性DIC診断基準[日本救急医学会]にてDICと診断)の3つのうちいずれかを含む場合、入院治療の上、Active Coolingを含めた集学的治療を考慮する。

IV度 深部体温40.0℃以上かつGCS≦8の場合、Active Coolingを含めた集学的治療を行う。

 重症例(III~IV度)の治療法としては、Active Coolingを含めた集学的治療を行うことを推奨しているが、Active Cooling の中の個別の冷却方法を推奨はしない。一方、軽症例(I~II度)は、クーラーや日陰の涼しい部屋で休憩するPassive Coolingと水分・電解質の補給で症状が軽快しうるが、改善に乏しい場合は、深部体温を測定したうえで、Active Coolingを行うべきである、と記されている。

 検討課題として、経口補水液、DIC治療薬、暑熱順化については十分な研究成果が得られていない点も記されている(p.5)。

熱中症の疫学的特徴

 厚生労働省の人口動態統計(確定数)によると、熱中症の死亡者数は毎年1,000例を超え、全国の熱中症搬送者数は9万1,467例に上る。年齢区分別では、高齢者(満65歳以上)が最も多く、次いで成人(満18歳以上満65歳未満)、少年(満7歳以上満18歳未満)、乳幼児(生後28日以上満7歳未満)の順となっており、発生場所は住居が最も多く、次いで道路、公衆(屋外)、仕事場(道路工事現場、工場、作業所など)の順となっている。他方で、全国の救命救急センターの入院症例を対象とした日本救急医学会の熱中症の調査Heatstroke STUDY(HsS)2020-21では、65歳以上が60%強、男性が70%弱、屋外発生が50%(日常生活が60%、労働が30%、スポーツが10%)、マスク着用は少数(不明例が多数)であった。

 最後に同委員会担当理事の横堀 將司氏(日本医科大学大学院医学研究科救急医学分野 教授)ならびに委員長の神田 潤氏(帝京大学医学部附属病院高度救命救急センター)らは、「HsSによると、IV度におけるActive Cooling実施率は90%以上であるにもかかわらず、院内死亡率が20%以上と重篤な状況にある。さらにIV度の可能性が高いqIV度のなかでも、深部体温の不明・未測定例が25%に上り、その不明・未測定例でのActive Coolingの実施状況は60%程度で、院内死亡率は37.0%であった。この状況を踏まえ、最重症であるIV度の熱中症が重篤である点、重症化が懸念されるqIV度での深部体温測定とActive Coolingの徹底が重要」としている。

(ケアネット 土井 舞子)