顧客からの暴言・暴力などの迷惑行為が大きく報じられ、鉄道・航空会社や大手百貨店などが対処方針を公表するなど社会問題になっている。CareNet.comでは、医療業界における迷惑行為の実態を調査するため、会員医師1,026人を対象に患者(家族・知人含む)からの迷惑行為(ペイシェントハラスメント)に関するアンケートを実施した。その結果、非常に多くの医師がペイシェントハラスメントを経験し、さまざまな予防や対策を講じていることが明らかになった(2024年7月29日実施)。
ペイシェントハラスメントを経験した医師は約70%
Q1では、過去にペイシェントハラスメントを受けた経験があるかどうかを聞いた(単一回答)。その結果、「ある」と回答した医師は69.5%、「ない」と回答した医師は30.5%であった。年代別の「ある」と回答した割合は、20代が67.6%、30代が70.7%、40代が77.6%、50代が70.1%、60代が62.8%、70歳以上は58.7%であった。
「暴言」が圧倒的だが「暴力」も多い
Q2では、上記Q1で「ある」と回答した場合、どのようなペイシェントハラスメントであったかを聞いた(複数回答)。多いものから暴言、脅迫・過剰なサービスの要求、診療費の不払い、業務妨害・不退去(居座り)、暴力、器物破損・建造物破損、セクハラ・ストーカーであった。
フリーコメントでは、「生活費がないから入院させてくれと言った生活保護患者の要求を断ったら殴られた」「縫合が必要な挫創を縫合せずに治せと言われた。できないことを何度も説明した。やがて患者があきらめた」「最近は泥酔者が頻繁に救急車で搬送され、喚くわ暴れるわで手を焼いている」「反社の方のパートナーが過換気症候群になって救急外来に運びこまれた際、胸ぐらをつかまれてちゃんと直さないと殺すと言われた」などの経験が寄せられた。
ペイシェントハラスメントのきっかけは?
Q3では、ペイシェントハラスメントのきっかけについて聞いた(複数回答)。その結果、「患者の誤解・思い込み・意見の相違」が最も多く、治療方針・内容、待ち時間・診察時間、医師・医療者・事務スタッフの言動、診断・診察結果、薬剤のこだわり、診察費などが続いた。
フリーコメントでは、第1位であった「患者の誤解・思い込み・意見の相違」に端を発するペイシェントハラスメントの予防と考えられる「積極的なコミュニケーション」「わかりやすい説明」を心がけているというコメントがとくに目立った。しかし、「挨拶が悪い」ことからハラスメントに至ったという理不尽な事例もあった。
マニュアルがあるのは23.1%
Q4では、勤務/経営医療機関にペイシェントハラスメント対策のためのマニュアル(対応指針)があるかどうかを聞いた。全体では、「ある」が23.1%、「ない」が39.1%、わからないが37.8%であった。病床数別では、20床以上の施設の「ある」が25.9%、「ない」が33.0%、「わからない」が41.0%であった一方、19床以下施設ではそれぞれ12.9%、60.7%、26.3%で、クリニックではマニュアル整備が十分ではないことが明らかになった。
フリーコメントでもマニュアルの整備や複数人で対応するなどの仕組みが重要という回答が多く寄せられたが、「マニュアルがあっても、実際の現場ではあまり役に立っていないと感じる」「マニュアルがあっても、実際の現場では対応がままならず、怖い思いをしたことが何度もあります」という回答も寄せられた。
Q5ではフリーコメントとして、ペイシェントハラスメントの予防方法、ご経験やその際の対応方法などを聞いた。
予防に関するご意見
・なるべく患者、家族と日々しっかりコミュニケーションを取るようにしている。
・普段から相手の話を聞いて患者側の主張をうまく否定しないような診療を心がけています。
・最初に傾聴する時間を多くとり、どんな人となりかある程度把握できると、対応しやすくなることが多いと感じる。
・わかりやすい言葉で論理立てて丁寧に説明している。
・まずは患者との信頼関係の確立が重要。
・問題を起こしそうな患者さんこそ丁寧に対応する。
・要注意患者のリストを作りあらかじめ職員に周知させておくことが重要。
・院内での提示などで患者に注意を促す。
対応に関するご意見
・医療機関にも毅然とした態度が必要であると思うし、そのように努力している。
・どんなときも毅然とした対応で警察への通報も躊躇すべきではない。
・警察OBの職員を呼ぶ。
・医師個人ではなくて、医療機関全体で対応する必要があると考えます。病院として、毅然とした対応がとれる枠組みが必要だと感じています。
・とにかく我慢せずに、上司や事務方も巻き込んで、システマティックに対応することが大切。
・悪質な場合は、応召義務の除外規定に該当するので、診療をお断りする。
・何が気に入らないのか、何を求めて苛立っているのか話を聞く姿勢を見せれば冷静になってもらえることがある。
・不当な要求や他患者の診療に影響が出るほどの暴言、クレームなどを行った患者は基本的に次回から出禁にして受付できないようにしています(応召義務に反しない範囲で)。
・セクハラ行為については拒絶的態度をはっきりさせる。
アンケート結果の詳細は以下のページに掲載中。
ペイシェントハラスメントを受けたことがある医師は何割?/医師1,000人アンケート
(ケアネット 森 幸子)