身勝手な患者による極悪非道な事件が昨年12月から2件も立て続けに発生したことを受け、CareNet.comでは各施設での患者からの迷惑行為(ペイシェントハラスメント1))対応策についてアンケート調査を実施した。本サイトでは2017年にも同様のアンケートを実施しており、両者の結果を照らし合わせると、なんとこの5年間でペイシェントハラスメントを受けた医師が20%も増加していることがわかった。また、2017年時点でペイシェントハラスメント対応マニュアルやガイドラインを設けている施設は30%超だったが、現在はどうなのだろうか。
ペイシェントハラスメントを7割が経験、患者本人やその家族から
Q1『ペイシェントハラスメントを受けたことがありますか?』との問いには、勤務医、開業医ともに7割もの人が「はい」と回答。年代別に見ると、40代の中堅医師が最も多く(81%)、次いで30代が72%も経験していた。一方、50代以降になると63~68%とペイシェントハラスメント経験はやや低下傾向だった。
続いて、Q2『誰にハラスメントされましたか?』については、患者本人からが3割、本人以外(家族、知人・友人、会社同僚など)からも3割が受けていた。患者本人からのハラスメントを受けたのは20代(59%)が突出して多かった。
さらにアンケートによると、2件の事件によって4割超の医師が影響を受け、その多くがペイシェントハラスメントの対策やマニュアルの再確認を行ったと回答している。
主なペイシェントハラスメント対応策は以下のとおり。
<<ペイシェントハラスメント対応策>>
・診察室には患者の目の前に警察の電話番号を掲示してしておく(60代、皮膚科)
・ボイスレコーダー(60代、小児科)
・紹介状に”大変神経質な方です”と書く(40代、皮膚科)
・患者さんとは違う逃げ道[避難通路]を作る(60代、精神科/心療内科)
・法人関連にて、各医療機関の診察券を共通化し、非常識な患者さんを当法人は何処でも受診拒否出来るようにしている(50代、内科)
・タクティカルペン[護身具としての機能を持つペン]を常備(60代、その他)
ペイシェントハラスメントから医療者を守るマニュアル
ペイシェントハラスメントをする患者を、モンスターペイシェント(MP)と呼ぶこともある。これについて、
医療従事者のためのモンスターペイシェント対策ハンドブック(執筆:滝川 稚也医師、編者:JA徳島厚生連 阿南共栄病院 教育委員会)
2)では『
病院の一般的なルールに沿って診療行為ができない患者』と定義付けている。なお、本書ではMPを3グループに分類している。
1)職業的なMP
交渉を有利に進めるための手段のひとつとして、暴力を一つのリソースとして確信犯的に日常的に使うヒト
※暴力的行為による利益獲得が目的
2)メンタルヘルス的な問題を抱えた患者
疾患のため社会的な適応能力が低下し、表現方法のひとつとして、暴力的な行動をとってしまうヒト
※障害・疾患や薬物・飲酒に起因
3)ごく普通の患者
ごく普通の患者が、些細な意思疎通の手違いのため、本来はそういうヒトではないのに暴力という手段を使ってしまうヒト
さらにこの書籍によると、このような患者対応を「個人の力量に任せるのではなく、組織全体で解決することが重要」ということにも触れていた。ところが、実際のアンケート結果を見ると、Q5『ハラスメントを受けた際、どのように対応しましたか?』(勤務医のみ、Q1で「はい」と回答した350人)では、53%は「上長らに相談」しているが、35%は「独断で対応した」と回答していた。年齢別にみると、50代が最も多く、責任者や部長という立場が影響しているのかもしれない。また、上記回答者の半数以上が外来診察室でペイシェントハラスメントを受けているという結果からも、上級医であったとしても、問題を抱え込まずに周囲のスタッフと連携して対応する必要があるかもしれない。
一方で、開業医の“モンスターペイシェント”対策状況を見ると、患者からのハラスメントを受けている医師が7割もいたにもかかわらず、ペイシェントハラスメント対策のためのマニュアルを用意していたのは、なんと1割強に留まった。また、開業医の4割はペイシェントハラスメントに遭遇した際にすぐに相談できる相手がいないことも明らかになった。
なお、今回の事件を受け、日本在宅医療連合学会では、今年7月に開催される大会において大会長の谷水 正人氏(四国がんセンター院長)の提案により、シンポジウム「在宅医療・ケア関係者の安全確保、訪問員を守る対策」が開催される予定だ。
現時点では、医療者をペイシェントハラスメントから守るマニュアルは各施設で制作するしか手立てがなく、開業医にとってはややお手上げ状態だが、今後、各学会で医療者を守るための方策が進められるかもしれない。患者に寄り添いひたむきな姿勢が評判だった2名の医師への哀悼の意を表するとともに、同様の事件を繰り返さないためにも本アンケートが少しでも現場の医師・医療者のお役に立てることを願って止まない。
アンケート結果の詳細は以下のページに掲載中
『
患者の迷惑行為、勤務医/開業医の対応法は?』
<アンケート概要>
●タイトル:“モンスターペイシェント”からの迷惑行為、どんな対策してますか?
●内容:医療者が巻き込まれる事件が相次いでいることを受け、病院・クリニックが取り組んでいる患者の迷惑行為対策、診療に対する心境の変化などを調査
●実施期間:2022年2月1日(火)~2日(水)
●調査方法:インターネット
●対象:会員医師 1,000人(開業医:500人、勤務医:500人)
(ケアネット 土井 舞子)