周術期管理における薬剤の継続・中止戦略は不明なことが多く、レニン-アンジオテンシン系阻害薬(RASI:ACE阻害薬またはARB)もその1つである。RASI継続が術中の血圧低下、術後の心血管イベントや急性腎障害につながる可能性もあるが、Stop-or-Not Trialのメンバーの1人である米国・カルフォルニア大学サンフランシスコ校のMatthieu Legrand氏は、心臓以外の大手術を受けた患者において、術前のRASI継続が中止と比較して術後合併症の発生率の高さに関連しないことを示唆した。この報告は8月30日~9月2日に英国・ロンドンで開催されたEuropean Society of Cardiology 2024(ESC2024、欧州心臓病学会)のホットラインセッションで報告され、同時にJAMA誌オンライン版2024年8月30日号に掲載された。
研究者らは、心臓以外の大手術前でのRASIの継続あるいは中止が、術後28日時点での合併症の減少につながるかどうかを評価するため、フランスの病院40施設において、2018年1月~2023年4月にRASIによる治療を3ヵ月以上受け、心臓以外の大手術を受ける予定の患者を対象にランダム化比較試験を実施した。
対象患者は、手術当日までRASIの使用を継続する群(n=1,107)と手術48時間前にRASIの使用を中止する群(最終服用は手術3日前、n=1,115)に無作為に割り付けられた。主要評価項目は術後28日以内の全死亡と主な術後合併症の複合。副次評価項目は術中の血圧低下、急性腎障害、術後臓器不全、術後28日間の入院期間とICU滞在期間。
主な結果は以下のとおり。
・対象患者2,222例は平均年齢±SDが67±10歳、男性が65%だった。また、患者全体の 98%が高血圧症、9%が慢性腎臓病、8%が糖尿病、4%が心不全の治療を受けており、ベースライン時点での降圧薬治療の内訳はACE阻害薬が46%、ARBが54%であった。
・全死亡および主な術後合併症の発生率は、RASI中止群で22%(1,115例中245例)、RASI継続群で22%(1,107例中247例)であった(リスク比[RR]:1.02、95%信頼区間[CI]:0.87~1.19、p=0.85)。
・術中の血圧低下は、RASI中止群の41%に発生し、RASI継続群の54%に発生した(RR:1.31、95%CI:1.19~1.44)。
・平均動脈圧が60mmHg未満の持続時間中央値(四分位範囲)は、中止群で6分(4~12)、継続群で9分(5~16)だった(平均差:3.7分、95%CI:1.4~6.0)。
・試験結果において、そのほかの差はみられなかった。
(ケアネット 土井 舞子)