2024年8月、日本新薬と日本イーライリリーは、ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)阻害薬ピルトブルチニブ(商品名:ジャイパーカ)の発売を開始した。適応はほかのBTK阻害薬に抵抗性又は不耐容の再発又は難治性のマントル細胞リンパ腫(MCL)。発売に合わせ、9月5日に行われた日本新薬主催のプレスセミナーでは、がん研究会有明病院の丸山 大氏が「マントル細胞リンパ腫に対する既存のBTK阻害剤後のアンメットニーズ」と題した講演を行った。
悪性リンパ腫は全がん種のうち男女とも罹患数で10位以内に入る、比較的患者数の多いがんだ。一方で、MCLは悪性リンパ腫全体の2~3%(日本の場合)であり、希少疾患に数えられる。発症年齢中央値は60代半ば、男女比は2対1程度と「高齢の男性」に多いがんと言える。リンパ腫の中には治癒するものもあるが、MCLは治癒が難しいとされ、初回治療は大量化学療法もしくは自家造血幹細胞移植だが治療抵抗性となる率が高く、多くの患者が次治療に移行する。「造血器腫瘍診療ガイドライン 2023年版」では、再発難治MCLにする治療としてイブルチニブ、ベンダムスチン、ボルテゾミブ単剤もしくはリツキシマブとの併用、GDP療法など複数の多剤併用療法が推奨されており、とくにピルトブルチニブと同じBTK阻害薬であるイブルチニブが広く使われている。しかし、イブルチニブにも治療抵抗性となった場合の次治療のレジメンはさらに多岐にわたり、確立されたものはない状態だ。
イブルチニブをはじめとする従来型のBTK阻害薬は、BTKタンパク質のC481位のアミノ酸に共有結合することで作用する「共有結合型阻害薬」に分類される。一方、今回発売されたピルトブルチニブはC481位を介さない「非共有結合型阻害薬」となる。この違いによって、C481変異によって引き起こされる共有結合型阻害薬への耐性を回避するため、従来型BTK阻害薬に耐性となった患者に対しても有効性が期待される。また、ピルトブルチニブは従来型BTK阻害薬に比べBTKに対する選択性が高く、非標的分子への影響を抑えることができるため、副作用のリスクを軽減できる可能性もある。
今回のピルトブルチニブの承認は、国際共同第I/II相BRUIN-18001試験に基づくもの。有効性解析対象となった日本人8例を含む65例を対象にした本試験では、従来型BTK阻害薬の前治療歴がある参加者に対し、ピルトブルチニブは56.9%の奏効率(CR+PR)を示した。奏効が得られた例では、比較的長期間の奏効持続が得られる傾向があった。一方、安全性解析対象集団となったMCL患者164例では89.0%(146例)に有害事象が認められ、発現頻度の高いものとしては疲労29.9%(49例)、下痢21.3%(35例)、呼吸困難16.5%(27例)などがあった。その他の重大な有害事象として感染症、出血および骨髄抑制が報告されている。
丸山氏は「治癒が困難な再発難治MCLに対し、新たな治療選択肢ができたことは喜ばしい」とまとめた。
(ケアネット 杉崎 真名)