国内初HIV曝露前予防(PrEP)適応取得、その意義と残された課題/ギリアド

提供元:ケアネット

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公開日:2024/10/04

 

 国連合同エイズ計画(UNAIDS)は、2030年までにHIV流行を終結するという目標を発表しているが、日本のHIV流行対策は世界に比べ後れを取っている状況だ。

 ギリアド・サイエンシズ(以下、ギリアド)は2024年8月28日付のプレスリリースで、HIV-1感染症の曝露前予防(以下、PrEP;Pre-Exposure Prophylaxis)としてツルバダ配合錠(一般名:エムトリシタビン・テノホビル ジソプロキシルフマル酸塩)(以下、ツルバダ)が一部変更承認を取得したと発表した。これによりツルバダは、日本で唯一のHIV-1感染症に対する治療と予防の両方の承認を取得した薬剤となった。

 9月25日に行われたギリアド開催のメディアセミナーでは、「PrEP承認がもたらすHIV/AIDSの新展開」をテーマとした議論が交わされた。

HIV感染予防の新たなステップ:PrEPとは

 PrEPとは、HIV未感染の高リスク者が感染リスク軽減のために抗HIV薬を予防的に内服することで、99%以上の感染予防が可能(アドヒアランスが良好な場合)1)といわれている。

 ギリアドは、これまでもHIV/AIDS啓発活動コンソーシアム「HIV/AIDS GAP6」としてHIV流行終結に向けた活動を続けており、今回、HIV治療薬としては既承認であったツルバダのPrEPに対する一部変更承認を取得した。海外におけるツルバダのPrEPとしての適応は、2012年の米国に始まり、欧州、中国を含むアジア諸国でも既に承認されている。
※HIV/AIDS GAP6:2021年12月に設立された、ギリアドおよび6つのHIVサポート団体(ぷれいす東京、JaNP+、はばたき福祉事業団、akta、community center ZEL、魅惑的倶楽部)によるコンソーシアム。HIV流行の終結をゴールに活動を続けている。

PrEP適応追加承認取得は、正しい知識の普及として大きな意義を持つ

 メディアセミナーでは、岡 慎一氏(国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センター 名誉センター長)から、PrEPとしての適応追加承認取得の意義が語られた。

 ツルバダをPrEPとして服用する方法には、1日1回1錠を内服する「デイリーPrEP」と、リスク行為の前後で内服する「オンデマンドPrEP」があり、今回承認となったのはデイリーPrEPのみである。PrEP適応には処方開始前の評価(HIV検査、性感染症検査など)および定期的なフォローアップ検査2)が必要で、PrEP処方と検査をパッケージとして行うことが重要だと、同氏は解説した。

 またPrEPにより、新規HIV感染者が80%減少したという欧州の報告3)が紹介された。

 岡氏は、「HIV感染者が抗HIV薬の服用によりU=Uを維持し、HIV感染ハイリスク者がPrEPを徹底すれば、10年程度で新規HIV感染者はゼロにできる」とHIV流行終結に向けて期待を寄せ、「今後PrEPの認知を広げ、正確な情報を普及させるためにも、今回の薬事承認は大きな意義がある」と述べた。
※U=U:「Undetectable=Untransmittable」の略。血液中のHIV量が検出感度未満で抑えられていれば、性行為による他者への感染を起こさないこと。

PrEPの適応追加承認は大きな一歩、ただし課題も残る

 セミナーのパネルディスカッションでは、「HIV/AIDS GAP6」の各メンバー6人と岡氏による、PrEPの重要性と課題についての議論が交わされた。

 HIV/AIDS GAP6は、HIV流行終結達成へ向け、差別・偏見の解消、予防、検査、治療における課題を解決すべく活動を続けており、そのうちの1つとして「HIV流行の終結に向けた要望書」を提出するなど、国内におけるPrEP承認へ尽力してきた。今回、PrEPの適応追加承認が得られた現時点での各メンバーによるPrEPの意義と期待が語られた。

 JaNP+代表理事の高久 陽介氏は、「HIVに限らず感染症においては、感染予防行動が重要であり、PrEPという新たな予防策が増えたことはとても大きな意義がある。また、HIVに関しては正しい知識の普及がまだ進んでいないため、偏見や差別をなくためのきっかけの1つとしても期待したい」と語った。

 また、魅惑的倶楽部理事長の鈴木 恵子氏は、「セックスコミュニケーションの過程で感染予防が難しい場合もあり、とくに女性において自分の意思を主張することができない状況は多い。自主的に行えるHIV感染予防の選択肢として、PrEPが果たす役割は大きいだろう」と付け加えた。

 しかし、今回承認となったツルバダのPrEP適応については、保険適用外となることが決定している。

 このPrEPに残された課題について、ぷれいす東京代表の生島 嗣氏は「現状の金額では、1日1錠の服用を継続的に行っていくことが難しい。そのため、海外輸入などの不適切な使用が横行する危険性がある。PrEPを持続可能性のある選択肢とするための方法を話し合っていきたい」と語った。

 最後に岡氏は、「今回の適応追加承認で、公にPrEPの情報発信ができるようになり、PrEPを日本に定着させるための土壌ができた。今後、PrEPを必要とする人々へ届けるためのスキームを作っていくために、引き続き議論の必要がある」と締めくくった。
※ツルバダの薬価:2,442.4円/錠、1日1錠処方の場合、30日で73,260円。

(ケアネット 高頭 七生)