呼吸器感染症に代表されるインフルエンザ感染は、心筋へウイルスが移行する直接作用、炎症惹起性サイトカイン放出による全身反応などによって心血管障害を及ぼす。また、プラークの不安定化、炎症による心拍数の不安定化への影響なども報告されているが、海外研究であるPARADIGM-HF試験1)が検証したところによると、インフルエンザワクチン接種が心不全患者の死亡リスク低下と関連する可能性を示唆している。
そこで筒井 裕之氏(国際医療福祉大学大学院 副大学院長)らはPARADIGM-HF試験に準じて行われた国内でのPARALLEL-HF試験2)の後付けサブ解析として『国内心不全患者のインフルエンザワクチン接種と心血管イベントの関連性』について検証、10月4~6日に開催された第28回日本心不全学会学術集会のLate breaking sessionで報告した。なお、本研究はCirculation reports誌2024年9月10日号に掲載3)された。
本研究は、日本国内の左室駆出率の低下した心不全(HFrEF)に対するサクビトリルバルサルタンの臨床試験であるPARALLEL-HF試験に登録された患者について、インフルエンザワクチンの接種率ならびに心血管イベントとの関連を検討した。
主な結果は以下のとおり。
・対象患者223例のうち97例(43%)がインフルエンザワクチン接種を受けていた。
・ワクチン接種群を非接種群と比較した場合の特徴として、高齢、BMI・収縮期血圧・eGFR低値があった。また、NYHA、LVEF、NT-proBNP、薬物治療について有意差はみられなかった。
・ワクチン接種群の全死亡(調整ハザード比[HR])は0.83(95%信頼区間[CI]:0.41~1.68)、心肺またはインフルエンザに関連した入院/死亡は調整HRが0.80(95%CI:0.52~1.22)と低い傾向がみられた。
・研究限界として、解析対象者が少数、ワクチン接種と予後との関連を解析している、ワクチンの詳細情報(種類、接種回数など)不十分などがあった。
日米欧の各診療ガイドラインでは“肺炎は心不全の増悪因子の1つ”と記されており、「日本国内では感染予防のため(クラスI、エビデンスレベルA)、米国では死亡率低下のためにreasonableである(クラスIIa、エビデンスレベルB)、欧州では心不全死亡低下のために[肺炎球菌ワクチンなども含めて]should be considered(クラスIIa、エビデンスレベルB)と推奨が記されている。接種目的は各国で異なるが欧米諸国の接種率は高い」と説明した。日本における心不全患者のインフルエンザワクチン接種率は国内の全体接種率が55.7%であることを見ても、低い傾向にあることが本研究より明らかになった。これを踏まえ、同氏は「本結果は海外のPARADIGM-HF試験のサブ解析と同様の結果を示した。現在、国内のHFrEF患者のインフルエンザワクチン接種率は不十分であるが、ワクチン接種による臨床的利益が期待できることが示された」と述べ、「ワクチン接種を推奨する医療の役割分担が不明瞭(かかりつけ医/一般内科/循環器専門医、クリニック/病院などの連携の必要性)、副反応による懸念、広報が不十分などの解決が喫緊の課題」と締めくくった。
(ケアネット 土井 舞子)