今冬はラニーニャ現象発生の影響で昨年よりも厳しい寒さとなり、心不全による入院の増加に一層の注意が必要かもしれない。では、どのような対策が必要なのだろうか―。これまで、寒冷曝露や気温の日内変動(寒暖差)が心筋梗塞や心不全入院を増加させる要因であることが示唆されてきたが、外気温低下の時間的影響までは明らかにされていない1,2)。10月4~6日に開催された第28回日本心不全学会学術集会のLate breaking sessionでは、これまでに雨季後の暑熱環境下における気温上昇と高齢者の心血管救急搬送リスクとの関連3)や脳卒中救急搬送リスク増加を示唆する疫学研究4)などを報告している藤本 竜平氏(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 疫学・衛生学分野/津山中央病院 心臓血管センター・循環器内科)が『時間層別による外気温低下と心不全救急搬送の関連』と題し、新たな知見を報告した。
同氏らは、気温低下が短期間に心不全へ及ぼす影響を検討するため、外気温が1℃ごと低下すると心不全の救急搬送にどのような影響を与えるかについて、時間層別の解析を行った。2009~19年に岡山市内に救急搬送された18歳以上の心不全患者を対象に自己対照研究デザインであるケースクロスオーバー研究を実施し、時間ごとの気温、気圧、相対湿度、PM2.5濃度を取得。条件付きロジスティック回帰分析により、気温1℃低下時の搬送前時間ごと(先行間隔:lag)に気圧や湿度などの交絡因子を調整したオッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)を算出し、年齢ごとに層別化した。主要評価項目は心不全救急搬送で、副次評価項目は性別、併存疾患、季節、曜日の影響を考慮した。
主な結果は以下のとおり。
・解析対象は5,406例(男性49.4%、平均年齢81.9±11.2歳)で、65歳以上は4,985例(平均年齢84.1±8.1歳)であり、圧倒的に高齢者が多かった。
・対象者の併存疾患には高血圧症、虚血性心疾患が多かった。
・季節は冬季、曜日は月曜日に心不全による救急搬送が多かった。
・年齢別で外気温低下の影響をみたところ、18~65歳未満ではリスク上昇を認めなかったものの、65歳以上の高齢者では低温にさらされてから24~47時間(1〜2日)のlagでOR:1.02(95%CI:1.00~1.03)とリスクが高くなり、その影響はさらに数日間持続していたことから、時間単位ではなく日単位で強く現れる遅延効果の存在が示唆された(24時間までのlagではリスク上昇を認めなかった)。
・このリスク増強は、女性、併存心疾患(多くは心不全と推察)、現在のように段々と寒くなる秋期にみられた。
・研究限界として、119番通報を発症時間としているので正確な発症時間が不明であること、自家用車や独歩での受診者が含まれていないこと、屋外の測定局データを利用したことなどが挙げられた。
寒冷による病態生理学的考察として、「交感神経緊張の亢進によりレニン-アンジオテンシン系の活性化をはじめ、心拍数や左室拡張末期圧および容積の増大、末梢血管抵抗や心筋酸素需要の増加、虚血閾値の低下、フィブリノゲン増加による血液凝固障害などを生じた結果、動脈圧が上昇し、左室後負荷不適合や心筋虚血による心不全増悪が考えられる」と説明した。また、気温が肺動脈圧に及ぼす影響などの報告5)も踏まえ、「気温低下に伴う交感神経系の緊張により急速な血圧上昇が時間単位で先行し、肺動脈圧上昇と合わさり、日単位で急性心不全を発症する遅延効果を説明するかもしれない」と推察した。このほか、併存疾患と寒冷関連新規発症心不全について、「ある観察研究6)によると60~69歳では併存疾患を2~3つ、70歳以上では1~2つ有する人でリスクが高まる」とも述べた。
同氏は本研究を踏まえ、「高齢者には、気温低下を観測した翌日から数日以降も、暖かい室内などで適温を維持し、とくに段々と寒くなる今の季節(秋)、心不全の既往がある女性(病型別ではHFpEF7))に対し多職種で予防策を講ずる必要性がある」と締めくくった。
■参考
1)Qiu H, et al. Circ Heart Fail. 2013;6:930-935.
2)Ni W, et al. J Am Coll Cardiol. 2024;84:1149-1159.
3)Fujimoto R, et al. J Am Heart Assoc. 2023;12:e027046.
4)岡山大学:梅雨明け後の暑さに注意!~梅雨明け後1か月間の暑さは高齢者の脳卒中救急搬送リスクを増やす~
5)Carrete A, et al. Eur J Heart Fail. 2024;20:1830-1831.
6)Chen DY, et al. Eur J Prev Cardiol. 2024 Aug 23. [Epub ahead of print]
7)Jimba T, et al. ESC Heart Fail. 2022;9:2899-2908.
(ケアネット 土井 舞子)