術前薬物療法を行ったHER2陽性早期乳がん患者が手術検体を用いた術前薬物療法後の再検査でHER2陰性になった場合は、HER2陽性が保持されている場合と比べて長期予後が不良である可能性を、明治薬科大学/第一三共の中谷 駿介氏が第62回日本癌治療学会学術集会(10月24~26日)で発表した。
これまでの研究により、HER2陽性早期乳がんで、術前薬物療法を実施して残存病変が確認された症例の約8~47%でHER2が陽性から陰性に変化するHER2陰転化が報告されている。術前薬物療法後の手術検体を用いたHER2再評価は現時点で必須となっていないため、HER2陰転化症例に対しても術後薬物療法として抗HER2薬が投与されている実情がある。他方、HER2陰転化が予後に与える影響は研究によって結論が異なっている。HER2陰転化が予後に与える影響を明らかにすることで、術前薬物療法後の手術検体を用いたHER2再評価の必要性の再考、並びにHER2陰転化症例に対する最適な術後薬物療法の選択に寄与できる可能性がある。そこで、研究グループは、HER2陰転化が予後に与える影響を検討するために、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。
研究グループは、2023年11月19日にPubMedとCochrane Libraryで対象となる研究を検索した。選択基準は、術前薬物療法を受けたHER2陽性早期乳がん症例を対象とし、術前薬物療法前後のHER2検査結果が報告されていて、再発リスクに関するアウトカムあるいは全生存期間(OS)の結果が報告されている観察研究あるいは介入研究で、2人の研究者がスクリーニングを実施した。主要評価項目は、HER2陽性早期乳がんにおける術前薬物療法後のHER2陰転化の予後予測因子としての有用性であった。
主な結果・考察は以下のとおり。
・2013~22年に報告された8件の研究がシステマティックレビューおよびメタ解析に含まれた。再発リスクに関するアウトカムである無病生存期間(DFS)/無浸潤疾患生存期間(iDFS)/無再発生存期間(RFS)においては8件すべてが、OSにおいては8件のうち4件がメタ解析に含まれた。
・HER2保持群と比べ、HER2陰転化群ではDFS/iDFS/RFSが統計学的に有意に不良であった(ハザード比[HR]:1.85、95%信頼区間[CI]:1.31~2.61、p=0.0005)。
・ORにおいてもHER2陰転化群で統計学的に有意に不良であった(HR:2.37、95%CI:1.27~4.41、p=0.0065)。
・HER2陰転化はHER2陽性早期乳がんの予後に影響を与えるリスク因子であることが示唆された。
・HER2陰転化群がHER2保持群と比べて予後不良であった要因として、HER2陰転化症例に対して作用機序に基づいた適切な術後薬物療法が選択できていない可能性が考えられる。
これらの結果より、中谷氏は「術前薬物療法後の手術検体を用いてHER2再検査を実施し、その結果に応じた薬物療法を選択することで、HER2陰転化症例に対して最適な治療法を提供できる可能性がある。HER2陰転化症例に対する最適な術後薬物療法に関するさらなる研究が期待される」とまとめた。
(ケアネット 森)