ブリストル・マイヤーズ スクイブは、ROS1阻害薬レポトレクチニブ(商品名:オータイロ)について、2024年9月24日に「ROS1融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌(NSCLC)」の適応で製造販売承認を取得し、同年11月20日に発売した。発売に先立ち、ブリストル・マイヤーズ スクイブは「ROS1融合遺伝子陽性非小細胞肺癌についてのメディアセミナー」を2024年11月14日に実施した。
分子標的薬の登場で大幅に治療成績が改善
「
ROS1融合遺伝子陽性肺癌に対する治療戦略」と題し、後藤 功一氏(国立がん研究センター東病院 副院長・呼吸器内科長)が
ROS1融合遺伝子陽性NSCLCの治療の変遷とレポトレクチニブの特徴について紹介した。
ROS1融合遺伝子は、NSCLCの約1%にみられる。また、65歳未満、女性、喫煙歴なし、腺がんの割合が高いという特徴を有する。ただし、後藤氏は「65歳以上も40%近くを占め、男性にもみられるため、対象を絞らずにNSCLC患者全体に対して遺伝子検査を実施し、
ROS1融合遺伝子陽性NSCLCを見つけることが重要である」と強調した。
ROS1融合遺伝子陽性NSCLCに対する治療では、ROS1チロシンキナーゼ阻害薬(ROS1-TKI)として、2017年にクリゾチニブが承認を取得し、2020年にはエヌトレクチニブが承認を取得している。これらの薬剤は高い有効性を示し、奏効割合(ORR)はそれぞれ71.7%
1)、67.9%
2)、無増悪生存期間(PFS)中央値はそれぞれ15.9ヵ月
1)、15.7ヵ月
2)と、大幅な治療成績の改善が報告されている。
レポトレクチニブは耐性変異や脳転移にも有効
ROS1融合遺伝子陽性NSCLCにおいて、ROS1-TKIは画期的な治療成績の改善をもたらしたが、耐性が生じることも明らかになっている。耐性機序の1つにROS1におけるG2032R変異が挙げられているが、レポトレクチニブはこの耐性変異を克服しうる薬剤として開発された。
レポトレクチニブは、国際共同第I/II相試験「TRIDENT-1試験」
3)の結果を基に製造販売承認を取得した。本試験は、ROS1-TKI未治療の集団だけでなく、ROS1-TKI既治療の集団での治療成績も評価されている。今回、後藤氏は「ROS1-TKI未治療集団」「1種類のROS1-TKIのみの前治療歴を有する集団」の治療成績を紹介した。
ROS1-TKI未治療集団において、ORRは78.9%と高く、奏効期間(DOR)中央値は34.1ヵ月、PFS中央値は35.7ヵ月であった。このことから、レポトレクチニブは長期にわたって耐性が生じず、効果が持続することが示された。また、レポトレクチニブの特徴として、後藤氏は中枢移行性が高いことを挙げた。実際に、レポトレクチニブは、脳転移を有する患者9例中8例において奏効が認められた。
1種類のROS1-TKIのみの前治療歴を有する集団においても、レポトレクチニブは有効性を示し、耐性変異にも有効であることが示唆された。本集団において、ORRは37.5%、PFS中央値は9.0ヵ月であった。
安全性について、本試験における重篤な副作用の発現割合は7.4%、投与中止に至った副作用の発現割合は3.7%であった。中枢神経系の副作用としては浮動性めまいが56.5%、味覚不全が48.9%に発現した。これらの結果について、後藤氏は「レポトレクチニブは毒性が軽いという特徴がある。ただし中枢神経系へ移行することから、めまいが多く、味覚不全も起こる」と述べ、レポトレクチニブによる長期の有効性を得るためには、めまいなどの有害事象を減薬や休薬などによってコントロールすることが重要であると強調した。
レポトレクチニブの有効性に関する詳細は以下のとおり。
【ROS1-TKI未治療例(71例)】
ORR(主要評価項目):78.9%(CR:9.9%、PR:69.0%)
奏効までの期間中央値:1.84ヵ月
DOR中央値:34.1ヵ月(2年奏効率:73.2%)
PFS中央値:35.7ヵ月(18ヵ月PFS率:70.0%)
OS中央値:未到達(18ヵ月OS率:87.9%)
頭蓋内ORR:88.9%(8/9例)
【1種類のROS1-TKI既治療例(56例)】
ORR(主要評価項目):37.5%(CR:5.4%、PR:32.1%)
DOR中央値:14.8ヵ月(1年奏効率:55.7%)
PFS中央値:9.0ヵ月(1年PFS率:41.2%)
OS中央値:25.1ヵ月(1年OS率:69.2%)
患者が抱える治療選択肢がなくなる不安
続いて、
ROS1融合遺伝子陽性NSCLC患者の吉野 振一郎氏が登壇し、自身の治療経験について述べた。吉野氏は、ROS1-TKIによる治療を始める際には、「早く治療を始めることで、耐性も早く出てしまうのではないか」と考え、なかなか治療に踏み切れなかったという。
その後、ROS1-TKIによる治療を始めてから2年半ほど経過した現在も耐性は生じず、1剤目のROS1-TKIを使用しているとのことであるが、吉野氏は「2ヵ月に1回の検査は、耐性が出ているのではないかと非常に不安になる。入学試験の結果を聞きに行くような感じだ」と語った。また、「患者の願いは、使える薬剤や治療がたくさんあることである」と述べ、レポトレクチニブの登場について「耐性が出てしまっても、次の薬剤があると思えるのは安心できる」と期待を述べた。
【レポトレクチニブの製品概要】
商品名:オータイロカプセル40mg
一般名:レポトレクチニブ
製造販売承認取得日:2024年9月24日
薬価基準収載日:2024年11月20日
発売日:2024年11月20日
薬価:3,468.30円(40mg 1カプセル)
効能又は効果:
ROS1融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌
用法及び用量:通常、成人にはレポトレクチニブとして1回160mgを1日1回14日間経口投与する。その後、1回160mgを1日2回経口投与する。なお、患者の状態により適宜減量する。
製造販売元:ブリストル・マイヤーズ スクイブ株式会社
(ケアネット 佐藤 亮)