増える成人食物アレルギーと新規アレルゲン、「食べたい」に応えるために/日本アレルギー学会

提供元:ケアネット

印刷ボタン

公開日:2024/12/23

 

 成人の食物アレルギーは、罹患者数が増加の一途をたどっている。しかし、疫学データの不足や病態解明が不十分であることなどから、専門診療の需要が急増している。このような背景から、成人の食物アレルギーは近年注目を集めている。そこで第73回日本アレルギー学会学術大会(10月18~20日)において、「成人の食物アレルギーアップデート」というシンポジウムが開催された。本シンポジウムにおいて、矢上 晶子氏(藤田医科大学ばんたね病院 総合アレルギー科 教授)が「成人領域における食物アレルギーの新たなアレルゲン」というテーマで、新たなアレルゲンの同定方法、注目される新たなアレルゲン、アレルゲン解析後の対応について解説した。

小児と異なる成人の食物アレルギー

 成人の食物アレルギー診療では、患者に多様な背景が存在する。その例として、矢上氏は「食物アレルギーに困っている、誤食が心配である」「香粧品由来・職業性に発症した」「食物アレルギーの診断はついているが再び食べたい」「自己判断で食べないようにしている」といった患者の声や背景があることを紹介した。

 食物アレルギーの原因検索にはプリックテストを用いる。矢上氏の所属する藤田医科大学ばんたね病院では、2021~23年に食物アレルギーの疑いでプリックテストを実施したのは945例であり、そのうち何らかの陽性反応がみられたのは約半数の489例であった。陽性例の年齢は幅広く、4~88歳まで分布していた。

 原因食物としては魚介類、果物、穀物、野菜の順に多く、果物の中では桃、キウイ、りんごの順に多かった。野菜ではトマト、きゅうり、アボカドの順に多かった。プリックテストで陽性となった場合の考え方について、たとえば桃が陽性になった場合には花粉抗原を疑い、PR-10、プロフィリン、GRPなどを調べて交差反応性を検討することや、トマトではスギとの交差反応性を疑うことなどを紹介した。

 近年の研究において、小児と成人では同じ食物に対するアレルギーでも、原因が異なる可能性も示されている。たとえばエビの場合、小児ではダニ感作でエビ摂取後に症状が生じることが多く、原因となる抗原はトロポミオシンが代表的であるのに対し、成人では単独感作もしくは経皮感作が多く、原因となる抗原はミオシン重鎖が代表的であることなどである。

 重症の魚アレルギーのマーカーについても紹介した。魚アレルギーの患者はさまざまな抗原に感作するが、重症例ではコラーゲン感作例が多く、コラーゲン特異的IgE抗体価が高い患者ほどアレルギー症状が強いことが示唆されている。

近年増加する食品コオロギとアレルギー

 続いて、矢上氏は成人の食品アレルギーにおける新たなアレルゲンについて紹介した。近年、多くの新たなアレルゲンが報告されているが、そのなかでも、近年の食品コオロギの増加に伴って生じたコオロギアレルギーについて解説した。

 コオロギとエビには交差反応性がある。交差抗原としては、トロポミオシンやアルギニンキナーゼなどが報告されており、EUでは「貝類、甲殻類、ダニ類にアレルギーを持つ人は摂取を避ける必要がある」と注意喚起されている。しかし、本邦ではこのような交差反応性に関する注意喚起や表示の決まりがないという問題が存在すると矢上氏は指摘した。

 では、どのような対策が考えられるのだろうか。矢上氏は、本邦においてコオロギアレルギーのリスクが高い人の特徴が明らかになってきたことを紹介した。矢上氏らの研究では、ダニ感作ありでエビアレルギーを有する人は、コオロギ特異的IgE抗体価がエビトロポミオシン特異的IgE抗体価と強い相関関係にあった。つまり、ダニ感作のあるエビアレルギー(おそらく小児例)を有する人は、コオロギアレルギーのリスクが高いということである。これを踏まえて矢上氏は「すべての方にコオロギ食品を食べないように言ってはいけないが、注意喚起をしていくことは重要である」と述べた。

「食べたい」に応えるために

 成人では、「アレルギーにより魚類をまったく摂取しなくなったが、また食べたい」「加熱食品は摂取できるが生の食品も摂取してみたい」という声や「食物経口負荷試験や食物経口免疫療法を途中で断念した」という背景などが存在すると矢上氏は述べた。そこで、患者の「食べたい」という希望に応えるための対応を紹介した。

 たとえば、香粧品由来や職業性(例:回転寿司店でのアルバイトによる経皮感作)にアレルギーを発症した場合など、経皮感作が疑われる場合には、そのアレルゲンとの接触を断つことで、抗原に対する特異的IgE抗体価が経時的に低下することが多い。そのような場合は、摂取再開が可能になることが報告されており、経験的にもわかってきていると矢上氏は述べた。また、白身魚(パンガシウス)の摂取によりアナフィラキシーが生じ、それ以来魚類をまったく摂取しなくなった1例についても紹介した。「魚をまた食べたい」と切望されたことから、矢上氏らはプリックテストや血清学的解析を実施したという。その結果、マグロとサバには特異的IgEが検出されないことが確認され、入院で経口負荷試験を実施したところ、摂取可能であることが確認できた。

 以上のように、経口負荷試験などにより患者の「食べたい」という希望に応えられる可能性があるが、課題も存在すると矢上氏は指摘した。その1つとして、成人のアレルギー領域では経口負荷試験が普及していないことを挙げた。その理由として「成人で初めて食物アレルギーを発症して受診する方は、重篤な症状(アナフィラキシー)などを経験していることが多く、経口負荷試験でも同様の症状が誘発される可能性は低くない。原因の特定やどのような状態であれば食べられるかの確認には、経口負荷試験が有用であるが、現状の成人のアレルギー診療において、医療現場がそのようなリスクを負っても、外来の経口負荷試験には診療報酬がないことなどが挙げられる」と矢上氏は述べ、診療体制の整備にも尽力したい考えを示した。
※:16歳未満の小児に対する小児食物アレルギー負荷試験(D291-2)は保険適用で、3回/年を上限に実施可能

(ケアネット 佐藤 亮)