ハリケーンで認知症の人の死亡リスク上昇

提供元:HealthDay News

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公開日:2023/04/11

 

 ハリケーンによる災害が認知症の高齢者の死亡リスクを高める可能性を示唆するデータが報告された。認知症でない高齢者に比べて死亡リスクが1割近く高く、被災後に非被災地へ移転した人でも死亡リスクの上昇が認められたという。米ミシガン大学のSue Anne Bell氏らによる研究の結果であり、詳細は「JAMA Network Open」に3月7日掲載された。

 論文の筆頭著者であるBell氏は、ハリケーン被災により認知症の高齢者の死亡リスクが上昇することの理由として、「日常生活の混乱、生活環境の変化、さらには介護や医療へのアクセスが妨げられることに起因する可能性がある」としている。その上で、「この研究からの重要なメッセージは、被災した認知症の高齢者には固有なニーズがあるということだ。その最も顕著な一例を挙げるなら、認知症の人は災害発生時の危機的な状況を認識できないため、身の安全の確保をほぼ完全に介護者に依存することになる」としている。

 Bell氏らは、2017~2018年に発生した3件のハリケーンが、アルツハイマー病に関連する認知症(ADRD)のある高齢者の死亡リスクに与えた影響を、メディケア(高齢者対象の公的医療保険)のデータを用いて後方視的に検討した。

 米国連邦緊急事態管理庁(FEMA)が被災地として認定した地域において、ハリケーン上陸前の1年間のADRD高齢者の死亡者数は、人口1,000人当たり16.7人であった。しかしハリケーン上陸後の1年間では同18.1人となり、1,000人当たり1.32人(95%信頼区間1.13~1.52)は被災の影響による死亡の可能性が考えられた。年齢の一致する認知症でない高齢者との比較では、ADRDの高齢者は被災後の死亡リスクが8%高いと計算された〔相対リスク(RR)1.08(95%信頼区間1.07~1.09)〕。

 年齢層別に見ると、より高齢の群で認知症でない人とのリスク差がより大きいことも分かった〔65~74歳はリスク差が非有意で、75~84歳はRR1.05(同1.03~1.08)、85歳以上はRR1.09(1.08~1.11)〕。また、メディケアに加えてメディケイド(低所得者対象の公的保険)にも加入する資格のある二重資格者も、よりハイリスクであることが分かった。そのほかに、FEMAが被災地として認定しなかった地域へ被災後に移転したADRD高齢者の死亡リスクも推計され、そのような人でも死亡リスクが上昇していたことが示された。

 この研究のみでは、観察されたADRD高齢者の死亡リスク上昇の理由が、ハリケーン被災によるものだと断定することはできない。それでも、被災の3~6カ月後にADRD高齢者の死亡者数がピークに達していたことについて著者らは、「ハリケーンの暴風雨による直接的な被害以外の要因も関与して、死亡者数が増加したことを示唆するものではないか」とし、具体的には、ヘルスケアへのアクセスの機会が失われたか、ヘルスケアの内容が変更されたことの影響の可能性を述べている。

 米国の認知症の高齢者数は2020年時点で700万人超と推計されており、2030年までに900万人以上になり、さらに2040年までに1200万人近くに達すると予測されている。その一方、近年の気候変動の激化に伴う災害の増加も予想されている。Bell氏は、「われわれは過去の災害からもっと多くのことを学ぶべきだ。介護者はハリケーンの接近に際してどのような準備をし、どのように避難したか、地域社会はどのように機能したのか。そのような点を明らかにすることが必要だ」と述べている。同氏はまた、今回の研究報告によって、災害時のADRD高齢者のニーズに対する人々の認識が高まり、政策立案者がこの問題の解決に向かって動き出すことを期待している。

[2023年3月15日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら