自分の仕事が無意味だと感じたことがあるだろうか。チューリッヒ大学(スイス)のSimon Walo氏による研究から、自分の仕事は社会にとってほとんど、あるいは全く重要ではないと感じている人の割合が19%にも上ることが示された。このような考えを持つ人は、特に金融、営業、管理職の人で多かったという。この研究結果は、「Work, Employment and Society」に7月21日掲載された。
自分の仕事が社会的に無意味だと考えている人が多いことは、過去の研究で報告されている。この現象の理由の説明として、さまざまな理論が提唱されているが、その代表格が、米国の人類学者であるDavid Graeber氏が提唱した「ブルシット・ジョブ(どうでもいい仕事)理論」である。この理論では、世の中には無意味な仕事が存在し、それが一部の職種に目立つことが主張されている。Walo氏は、「従業員が、自分の仕事が社会的に無意味と感じているかどうかを評価するのは非常に複雑な問題であり、さまざまな角度からアプローチする必要がある」と述べている。また、「それは、Graeber氏が主張するように、仕事の実際の有用性とは必ずしも関係のない、さまざまな要因に左右されるものだ。例えば、労働条件の悪さが原因で、自分の仕事に社会的な意味を見出せないケースも考えられる」と付け加える。一方、他の研究では、人々は、自分の仕事の内容ではなく、それが毎日、決まった手順で繰り返し行うルーチンワークであり、自律性や優れた管理のないことから無意味だと考える可能性が指摘されている。
今回のWalo氏の研究では、2015年に米国で21種類の職種に従事する1,811人の調査データの分析が行われた。調査では、「自分の仕事は、地域社会や社会全体に良い影響を与えていると感じているか」と「有用な仕事をしていると感じているか」が尋ねられていた。その結果、調査参加者の19%が、質問に対して「一度も感じたことがない」「ほとんど感じたことがない」と回答していたことが明らかになった。
そこでWalo氏は、仕事のルーチンの程度、自律性、管理の質が同等の参加者同士を比較するために、元データを調整して解析した。その結果、労働条件を要因として除外した後でも、仕事の性質(職種)が従業員の感じる仕事の無意味さに大きく影響していることが示された。また、Graeber氏が無意味と見なした職種に従事する参加者は、上記の質問に否定的に回答する傾向が強いことも判明した。具体的には、ビジネス・金融、営業に従事する人では、自分の仕事が無意味だと回答する人が他の職種の人より2倍以上多く、事務職と管理職でも同様の傾向が認められた(それぞれ、1.6倍、1.9倍)。このほか、民間企業の仕事に就く人では、非営利団体や公共部門の仕事に就く人よりも、自分の仕事が無意味だと思うと回答した人の割合が高かった。
Walo氏は、「Graeber氏が最初に示したエビデンスは、主に数字では表せない定性的なものであり、問題の大きさを評価するのは困難だった。それに対して本研究では、これまで十分に活用されていない豊富なデータセットを活用することで、これまでの分析結果を拡張し、新たなエビデンスを提供することができた。したがって、本研究論文は、仕事の無意味さを感じさせる決定的な要因が職種であるとの主張を裏付ける、初めての定量的なエビデンスだと言える」と述べている。
[2023年8月4日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら