脳出血(intracerebral hemorrhage;ICH)後にコレステロール低下薬であるスタチン系薬剤(以下、スタチン)を服用すると、その後の虚血性脳卒中(脳梗塞)リスクが低下する可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。南デンマーク大学のDavid Gaist氏らによるこの研究の詳細は、「Neurology」に8月30日掲載された。
脳卒中は、脳内の出血により引き起こされるもの(くも膜下出血、ICH)と、脳への血流の遮断により引き起こされる脳梗塞に大別され、発生件数は脳梗塞の方が圧倒的に多い。Gaist氏は、今回の研究背景について、「過去の研究では、ICHの既往歴を有するスタチン使用者での脳卒中発症リスクについて、一致した結論が得られていない」と指摘。「われわれは、ICH後のスタチンの使用が、その後のICHや脳梗塞の発症リスクと関連するのかどうかを検討した」と説明している。
Gaist氏らは、デンマークの脳卒中レジストリを用いて、2003年1月から2021年12月の間に初発のICHにより入院し、その後30日を超えて生存した50歳以上の患者1万5,151人を特定。これらの患者を、脳卒中の再発、死亡、または追跡終了(2022年8月)に到達のいずれかが起きるまで平均3.3年にわたって追跡した上で、3つのコホート内症例対照研究を実施し、スタチンの使用と脳卒中(あらゆる脳卒中、脳梗塞、ICH)リスクとの関連を検討した。患者のスタチンの使用状況は、処方データを用いて調べた。
まず、あらゆる脳卒中を再発した1,959人(平均年齢72.6歳、女性45.3%)と年齢や性別などを一致させた、脳卒中を再発していない対照7,400人の比較を行った。脳卒中群では757人(38.6%)、対照群では3,044人(41.1%)がスタチンを使用していた。高血圧や糖尿病、飲酒などの関連因子で調整して解析した結果、スタチンの使用により、あらゆる脳卒中の再発リスクが12%低下することが示された(オッズ比0.88、95%信頼区間0.78〜0.99)。
次に、脳梗塞を発症した1,073人(平均年齢72.4歳、女性42.0%)と脳卒中を再発していない対照4,035人の比較を行った。脳梗塞群では427人(39.8%)、対照群では1,687人(41.8%)がスタチンを使用していた。関連因子で調整して解析した結果、スタチンの使用により、脳梗塞の発症リスクが21%低下することが示された(オッズ比0.79、95%信頼区間0.67〜0.92)。
最後に、ICHを再発した984人(平均年齢72.4歳、女性42.0%)と脳卒中を再発していない対照3,755人の比較を行った。ICH群では385人(39.1%)、対照群では1,532人(40.8%)がスタチンを使用していた。関連因子で調整して解析した結果、スタチンの使用と、ICH再発との間に有意な関連は認められなかった(オッズ比1.05、95%信頼区間0.88〜1.24)。
Gaist氏は、「この研究結果は、ICHの発症後にスタチンを使用している人にとっては朗報だ」と述べる。同氏は、「スタチンを使用することで、脳卒中リスクが低下することは確認されたが、その効果は、主に脳梗塞の発症に対してであったことには留意する必要がある。ただ、ICHの再発リスクについても、増加が認められたわけではない。この結果を、さらなる研究で検証する必要がある」と話している。
研究グループは、本研究の対象者がデンマーク人のみであったことに言及し、得られた知見はその他の国の人には該当しない可能性のあることも指摘している。
[2023年8月31日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら