アメリカンフットボール(以下、アメフト)のワイドレシーバーの多くは、ユニフォームの背番号の数字は大きいより小さい方がスリムで俊足に見えると信じているが、これはあながち間違いではないようだ。2つの実験において、選手の画像を見せられた実験参加者は、たとえ体のサイズが同じであっても、一貫して背番号10〜19番のユニフォームを着ているアメフト選手の方が、背番号80〜89番のユニフォームを着ている選手よりも細く見えると評価することが示された。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)心理学分野のLadan Shams氏らによるこの研究結果は、「PLOS ONE」に9月7日掲載された。
Shams氏は、「われわれが世界をどう認識するかは、予備知識に大きく影響される。スーパーマーケットで売られている砂糖やスポーツジムのウェイトなど、われわれが日常生活の中で見かける品物に書かれた数字はその大きさを表すのが通常であり、概して、数字が大きいほど、その品物も大きかったり重かったりする」と話す。
今回の研究は、米国のスポーツ専門チャンネルESPNが2019年に、アメフトのワイドレシーバーの多くが背番号10〜19番のユニフォームを着たがる理由を探った記事に端を発する。この記事によると、NFL(ナショナルフットボールリーグ)が長年ワイドレシーバーに義務付けていた「背番号80〜89番のユニフォームの着用」というルールが2004年に変更されたことを受け、2019年までにワイドレシーバーの80%近くが背番号10〜19番のユニフォームを着用するようになったという。その理由を問われた選手の多くが、「これまでワイドレシーバーに割り当てられていた大きな数字よりも小さな数字の方が俊足でスリムに見えると思ったから」と答えたという。当時、Shams氏はESPNの取材に対し、この現象について心理学的な説明を行ったものの、科学的な研究が不足していることを強調していた。そこで、今回の研究で同氏らは、2つの実験によりこの現象を科学的に裏付けることを試みた。
1つ目の実験では、37人の実験参加者に、コンピューターで作ったアメフト選手の画像を、2つの異なる条件下〔小さな数字の背番号(10〜19番)と大きな数字の背番号(80〜89番)のユニフォームの着用〕で提示し、0(非常に細い)から100(非常にがっちりしている)で評価してもらった。選手の画像は、いずれも正面を向いているが、ユニフォームの色、肌の色、体の幅と高さの比率(アスペクト比)などの要因を変えたものを準備し、同じ選手が連続して表示されないように配慮された。
その結果、体のアスペクト比や、肌やユニフォームの色に関係なく、背番号10〜19番のユニフォームを着た選手は80〜89番のユニフォームを着た選手よりも細く見えると評価される傾向のあることが明らかになった。
2つ目の実験では、149人の参加者を対象に、数字の形状(例えば、8は1よりも幅が広い)が知覚に与える影響に注目し、80〜89の数字がユニフォームに占めるスペースが、選手をよりがっちりした体格に感じさせるのかどうかが検証された。実験の手法は1つ目の実験と同様だったが、選手の背番号には、小さな数字として17、18、19、大きな数字として小さな数字の並びを逆にした71、81、91を用いた。
その結果、1つ目の実験よりも効果はやや小さかったものの、この実験でも参加者は背番号の数字が大きなユニフォームを着た選手を、数字が小さなユニフォームを着た選手よりも太って見えると評価する傾向があることに変わりはなかった。
Shams氏は、「脳は、数字と大きさの属性との間にすでに確立されている関連性を頼りに、体格に関する知覚情報を処理するようだ」と述べる。また、「これまでの研究で、脳は、統計学的な関連性や規則性を検出して記憶する能力が優れていることが明らかになっている。これらの関連性は、一般的に、脳が感覚情報を効率的に整理し解釈するのに役立つ。世界を素早く正確に認識する能力は生存に不可欠だ」と話す。
またShams氏は、「この研究は、この種の知覚バイアスが人間の脳内で常に働いており、それが有害な方向に働くと、特定の人や社会集団に対する否定的な判断や行動につながり得ることを思い起こさせるものだ」と説明する。その上で、「われわれは、できるだけ多様な、あらゆる種類の人々を見る必要がある。それにより、脳の統計学的な学習能力を利用して、暗黙の偏見を減らすことができる」と主張している。
[2023年9月7日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら